第81話 約束の場所 最後の時間
空音との最後の別れ……書いていて涙が止まりません。このあと大地は空音はどうなってしまうのでしょうか。
空音はそれからこの世界が出来るまでの経緯を教えてくれた。
「私は病気の悪化が原因で死んでしまったんだけど、天へと召されるまで時間がかかるとの事で準備が整うまでこの世界を好きに使って良いと言われたの」
「うん」
「それでね。私の青春時代の思い出がいっぱい詰まった中学時代の世界を創造したんだけど、ここで問題が起きたの」
空音が少し強張った顔になる。
「どんな問題?」
「現世でトラックに引かれた大ちゃんの魂がイキナリ飛び出してきたの……近くの病院にはバルキリーって呼ばれる天使達が大ちゃんの魂の移送で待ち構えてたし、このまま死なせちゃいけないって思って霧中で匿ったの」
やっぱり、あの時に助けてくれたのは空音だったのか。
空音の話が続く。
「大ちゃんを引き入れたのは良いけど、どうやって元の世界に帰すのか何も考えてなくて本当に困ったんだ。天使長だったお父さんに訳を説明して蘇生用の魔道具を用意してもらったんだけど、バレるとお咎めに遭うって事で私の記憶を封印して貰ってた」
「なんか悪かったな。事実を知れば全部俺のせいだったんじゃないか?しかしあの仮面道化はいったいなんだったんだ?」
「あれは大ちゃんが入ってくる時に一緒に紛れ込んできたの。私の世界を壊そうとするからすぐにでも追い出したかったんだけど、全然出て来なくてね。最終的には大ちゃん達がやっつけてくれたんだよね」
「ああ、みんなのお陰だよ」
笑顔で頷く空音。
「俺は元の世界に戻れるのはわかったけど空音はこの後どうなるんだ?」
「わからない。本来であれば天界へ召されるはずだったけど、この世界を壊し、天使を3人も犠牲にしてしまったからきっと裁きを受ける事にはなるとは思う」
「じゃあ空音も戻ろうよ元の世界にさ」
「それは無理よ。私にはもう場所も体も無いもの」
少し悲しそうな顔の空音。
「でも空音を一人残して俺だけノコノコ帰れるわけ無いだろ。俺も空音と一緒に天界へ行って裁きを受けるよ」
首を横に振る空音。
「大ちゃんには戻る場所も待っている家族いるでしょ?みんな心配してるのよ。それにほら奥さんのお腹の中には赤ちゃんがいるんだからさ」
「でもそれじゃ空音が…………ううぅぅう……」
泣いている俺をよそに空音は話を続ける。
「私の事は良いの。でももし私の事を思ってくれるんだったら1つだけ頼み事があるんだけど、聞いて貰える?」
「頼み事?」
「私さぁ……こんなにすぐに死んじゃうと思わなかったから一番大切な人に何も言わずに出てきちゃったんだ。本当に親不孝な娘だよね」
「……空音」
「だからお願い大ちゃん。私の気持ちを………思いを……おかぁ……グスッ……お母さんにぃ……グスッ…届けて欲しいの……ううぅぅ」
ずっと我慢していたのか泣き崩れて起き上がれない空音。
「グスッ……わかった……必ず空音のお母さんに届けるよ」
「グスッ……私の思いはね……。中学校の最後に埋めたタイムカプセルの中に入れてあるから掘り起こしてお母さんに渡して欲しいの………グスッ。ただ近日に学校の建替工事があるみたいだからなるべく早く掘り起こして届けて欲しい」
「わかった。約束するよ」
「ありがとう大ちゃんやっぱり頼りになるな」
「そう言ってくれるのは空音だけだよ。ウチの妻なんて俺を奴隷の様に扱い最近じゃ真似して息子まで……」
「ふふふ……でもなんだか楽しそうで良いなぁ。私は子供出来なかったからな」
「あのさ空音。俺からも一つ聞いても良いか?」
「なぁに?」
「高校入ってすぐにエンゼルランドに誘った事があっただろ?あれってどうして断ったりしたんだ。瑠花に聞いたら高校時代に空音が付き合ってる人はいなかったと言ってたし、未だにモヤモヤしててだな……」
俯き顔の空音が話始める。
「本当は墓場まで持ってくつもりだったんだけどなぁ。エンゼルランドに行く日に具合が悪くなって入院していたのは本当の事よ。でもその話には続きがあるの」
「うん」
「病状が酷く悪化した私は生きるか死ぬかってぐらいの大きな手術をしたの。手術は無事終了。だけど、その後遺症で私は……子供が産めない体になってしまった」
「……」
「大ちゃんの気持ちには気付いていたし、私も大ちゃんの事がずっと好きだったからデートに誘われた時には正直浮かれてた。でも子供が産めなくなった現実と対面した時に大ちゃんに会うのが恐くなって………グスッ…彼女になってガッカリされるのが恐くて……グスッ……ヒック……私は大ちゃんの彼女にはなっちゃいけないのかなって、そう思う様になって……グスッグスッ……諦めてしまった……ごめんね」
泣いている空音。そうかそんな事があったのか。
「グスッ……おっ俺の事を思っての事だろ?謝んないでくれよ………おっ俺の方こそ気付いてあげられないで……ううぅぅ……ごめんよ」
俺も泣き崩れる。
「グスッ……だからね……仮初めだけど……この……ううぅぅ……グスッ……この世界で大ちゃんと付き合えて……グスッ………私は……グスッ……私は本当に幸せだった。大ちゃんと見たハゲ鷹山の夕暮れ……私の事、好きだって告白してくれた事……グスッ………泣いている私を優しく抱き締めてくれた事……グスッ……私は大ちゃんの事を忘れない」
フラッシュバックする空音との思い出。
【回想】
【懸命な空音の演奏】
パワフルな演奏に一生懸命な顔に心を奪われゆく。あれっ空音ってあんなに可愛いかったっけ?
【学芸会の打ち上げで突然いなくなり心配している空音】
「ううぅぅ……私だってわかんないよ………ヒックヒック………大ちゃんと朱音ちゃん途中で急にいなくなっちゃうし私、心配で気付いたらここにいて………ヒックヒック……ごめん」
【頬を赤らめながらコンサートに誘う空音】
「実はウチの吹奏楽部でX'masコンサートやっててさぁ。OB特別枠でペアーチケット貰ったから良かったら一緒に聴きに行かないかなって」
【告白を受け入れてくれた少し照れ顔の空音】
「そう言えばまだ空音からの回答聞いて無かったよな。あいつら先走り過ぎなんだよな。たくっ……いつまでも待たせて悪かった。俺の告白受け取って貰えますか」
「はい。不束者ですが宜しくお願いします」
【ハゲ鷹山で一緒に夕暮れを見た事】
「凄い所だな。感動してなんか涙出てきたよ」
「えへへ……大ちゃんと一緒に見たかったんだ。私の一番好きな場所だから」
【回想終わり】
「ううぅぅ……そっ空音………俺も………俺も忘れない。この世界の事も………空音の事も……ううぅぅ………空音を愛した事も……絶対に忘れない」
「大ちゃん……好きだよ。世界で一番愛してる」
「俺もだよ空音。愛してる」
互いを思うが為に今まで抑えて来た感情が遂に爆発した。俺は空音と抱き合い、最後の口づけを交わした。
それは本当に熱く激しい口づけだった。柔らかな空音の唇は涙のせいで穂のかにしょっぱく切ない味がする。
俺は満たされていた、今にも消えてしまいそうな灯火の様な世界で真実の愛に巡り逢えて互いの温もりを感じながら入り交じって行く。
そして運命の時が近付く。
「グスッ……ごめん。そろそろ時間が来たみたい。大ちゃん、私の分まで楽しく生きてね。お母さんの事を……宜しく」
笑顔の空音を最後に俺の頭上に落雷が落ち辺りが真っ白へとかわってゆく。