第72話 愛の形(前編)
私が一番好きな話です。果たして大地は空音からのチョコ(愛)を貰えるのか?
受験から数日後……そこにはもう一つの戦いがあった。
今日は2月14日……そうバレンタインデーである。受験も一段落し、中学校生活の締めくくりとしての最後のビッグイベント。当然、俺が本命である空音からのチョコをゲットを目論んでいる事は言うまでもない。
「ふーん、ふふーん、ふーんふ」
いつになく上機嫌で朝の準備を終えてキッチリ空音と遭遇するであろう時間に家を出る。
「行ってきます」
いつもよりも早歩きで空音を捜索する。
「目の前に空音を確認……接近します」
まずは空音に近寄り、軽く挨拶だ。
「おはよ。空音、今日も良い天気だね」
「あっおはよう大ちゃん。でも今日って曇ってるよね?」
あうぅ……朝イチから痛恨のミス。こりゃ浮かれてるのバレバレか?いや大丈夫だろう天気ぐらいだし気にしない気にしない。取り合えず話を反らさなきゃ。
「空音は受験どうだったんだ?」
「うん。自分では良くできたと思ってるよ。頑張ったしね。へへへ……」
それからも世間話はするけど、一向にチョコの話題が出ない。このままじゃ学校に着いちまう。痺れを切らした俺は仕方無く話題をバレンタインデーに持って行く事に……。
「そう言えば空音。今日、なんの日か覚えてる?」
少し格好悪いが貰えないよりはいいだろう。
「あっそうだ。完全に忘れてたよ」
鞄の中をガサガサする空音。
「はい。これ」
そうそうこれだよこれ。俺が欲しかったのは。流石は空音、良くわかって……。
「妹の海音から……なんか手紙も入ってて本命っぽいよ」
違ーう。これじゃなーい。いや嬉しいんだけど、これじゃ無くてぇ……。
その後はチョコのやり取りも無く学校まで辿り着いてしまう。この感じは恐らく、照れてるな空音は……きっと直接渡すのが恥ずかしいんだ。コンサートに誘ってくれた時も照れてたしな。うんうん、きっとそうだろう。
休み時間空音を見ているが一向に動く気配なし。
「はぁー」
タメ息をついてるとクラスの女子何人かがやってきて一斉にチョコを手渡してくる。
「学芸会の時は色んな相談乗ってくれたし義理だけど、はい。お返し要らないからね」
「私も義理だからお返し要らない」
「私も私も……」
「私もいつも翔流君とお世話になっていますので義理ですが受け取って下さい。お返しは要りません」
瑠花まで?ついに俺にもモテ期が到来したのか?昼休みまでにクラスの大半の女子が来て気付けば15個も貰ってしまった。(海音以外のは全部義理だが……)
しかし今だ本命である空音からのチョコは貰えず……くれるのかすら心配なって来た。
そして放課後、そそくさと帰ってしまう空音。クラスの女子が空音の噂話をしている様だ。
「なんか空音ちゃん予備校でイケメンに声かけられたみたいよ」
「そうそう。そのイケメン君って同じ高校受験した人なんでしょ」
「美人だとそんな出会いがあって良いわよね。本当に羨ましいわ」
ガーーーン。思わぬ伏線。良く考えると俺達って別に付き合ってる訳でも何でも無いんだもんな。ただ好きだって言う気持ちを共有しただけで……。
「ううぅ………」
きっと下駄箱に……空音からのチョコが………最後の望みをかけて確認すると…………あった一つだけ入ってる。
「ったく……ビックリさせるなよな……ははは……はっ?」
チョコを見て驚愕する俺。
【dear大地 義理です。お返しは3倍でね from朱音】
結局、空音からのチョコはゲット出来ずに落胆しながら家へと帰る事になった。
夕方になり、部活を終えた妹の夏希が帰ってくると早速チョコの事で絡んでくる。
「お兄ちゃん只今。チョコは空音お姉ちゃんからだけかな?少し寂しいんじゃないの……へへへ」
俺が紙袋を指差すと中身を見てドン引いている夏希。
「へっ?……へぇーー結構いっぱい貰ったんだね。あははは……勿論、空音お姉ちゃんからのもあるんでしょ?」
「無い。空音の妹の海音ちゃんからのは貰ったが……」
完全に凹んでいる俺を哀れに思ったのか夏希が声をかけてくる。
「まあ、元気出しなよ。ほら私からのもあげるからさ。はい」
「はぁ……結局、こうなっちゃうんだよな……いつも」
夕食を食べ終えて嫌な思い出を忘れようと布団に入った瞬間、夏希から呼ばれる。
「お兄ちゃんお兄ちゃん大変。これ見てよ。家のポストに入ってたんだけどさ」