第70話 朱音の真意
放課後、駅前の喫茶店で待ち合わせをする。
「お待たせしました。すみません、突然呼び出したりしてしまって」
「いやいや構わんよ。私もたまには外に出たいと思っていたしな」
待ち合わせていた人物はアルディラ隊長であった。年末に朱音を怒らせてしまった事。朱音の嘘で俺の周りの交友関係が崩れている事等を相談すると……。
「ははは………なるほどそう言う事か」
笑っているアルディラ。
「笑い事じゃないですよ。こっちは深刻な問題なんですから」
「いやーすまんすまん。そんな事態に陥っているとは夢にも思っていなくてな」
ここで俺が本題について切り込んで行く。
「あの……そもそも朱音は何であんなに怒っているんでしょうか?」
少し頭を悩ませた様にアルディラが答える。
「恐らく君がこの世界に残るって言った事に対してだ。詳しくは話せないが朱音君の目的の一つに君を元の世界へ戻すという目標もあるようだ。まあ、主目的ではなく飽くまでも出来たら一緒に程度の事の様だがな」
フラッシュバックする朱音の表情。
「そうだったのか……それで朱音はあんなに怒りを露にして……俺はいったいどうしたら良いのでしょう」
アルディラがきっぱりと答える。
「自分の思うがままにしたら良いと私は思うよ。だいたい朱音君の目的に君が干渉する必要は全くないしな」
暗い顔した俺が更に質問をぶつける。
「でもこのままじゃ、また朱音がみんなに何かするんじゃないかって不安で……朱音の事も傷付けたくないし……」
アルディラが笑顔で俺の肩に手をやる。
「朱音君は言い方や態度は男勝りで少々キツい所があるし、感受性も強いが根は素直で優しい子なんだ。きっとお友達を傷付けてしまった事を本人が一番わかってるし、反省していると思うよ。だから君は信じて待っていてくれればそれで良い。きっと時が解決してくれるから」
目から涙が溢れ落ちる俺。アルディラ隊長に話して本当に良かった。
「今日は本当にありがとうございました」
「目黒君も色々と大変だとは思うが宜しく頼むよ。また、何かあったら言ってくれ」
そう言うとアルディラは闇へと消えて行く。
しかし、このアルディラ隊長……思い出せないけど、親しい誰かに似ているんだよな?誰だったっけ。
まあ、考えても無駄かと家に帰宅すると早めにベットに入る。するとグールアラートから通信があったランプの色は赤……朱音からだ。
「私、朱音だけどまだ起きてたんだね」
「まだ21時だし、殆ど寝てる奴なんていないんじゃないか?何か用か?」
「今日は……空音ちゃん達の前であんな事を言っちゃってごめん。少しやり過ぎたって反省してる」
隊長の言う通りだ。俺も謝んなきゃだよな。
「こっちこそごめん。知らなかったとは言え朱音の気持ちを全く考えずにこの世界に残りたいだなんて無神経な事を言って……」
少し言葉が返ってくるのに時間がかかる…ひょっとして泣いてるのか?
「グスグス……隊長に聞いたのかな?……グスッ……その事も…グスッ…私の身勝手な妄想が招いた……ただの我が儘なの……グスッ」
泣いている朱音の話をただ聞くことしか出来ない
「グスッ……ここへ来た時は……グスッ……ただ真実が知りたかっただけだったの。……グスッ……貴方に帰る意思があるのか無いのかを……グスッ」
「……」
「グスッ……だけど、一緒にいるうちに元の世界に帰りたがっている貴方を見て私、もしかして一緒に帰れるんじゃないかってうっすら期待してて……グスッ……先日グール退治が山場を超えた辺りから期待がドンドン膨らんで行って……でも貴方から出た回答はこの世界に残る事だった……グスッ」
「………」
「グスッ……正直、裏切られたって思った。私、一緒に帰れるって期待をしてたから……でも実際は私のただの我が儘。決めるのは貴方だから……ごめんなさい」
「ごめん。俺はそれでも……」
「良いの。それを決めるのは貴方だし、明日からは今まで通り接するからさ。……あと空音ちゃん達には今日の事は嘘だったってちゃんと謝るからごめんね」
そこで通信が切れる。朱音……ありがとう。
翌日、学校に行くといつものみんなに戻っていた。空音や翔流からも声がかかる。
「あっ大ちゃんおはよう。今朝、朱音ちゃんが家の前で待っててくれてさ。昨日言った事が全部嘘だったって謝ってくれたんだ。ごめんね心配掛けさせて……」
空音は昨日、酷く崩れてたけど……もう大丈夫そうだ。
「ああ、わかってくれれば俺はそれで……」
「朱音さんウチにも来てくれました。丁寧に謝っていただいて私の事は気になさらない様に言ったのですが……」
瑠花の所にも行ったのか。
「ったく調子狂っちゃうよ。あの高飛車な朱音が急に謝って来るなんて明日は台風何じゃないか?まあ、俺は最初から大地の事を信じてたけどな」
翔流も理解はしてくれてるようだ。
「昨日、俺の胸ぐらを掴んで殴ろうとしてたのはどこのどいつだったっけ?まあ、この件はこれで終わりだあんまりいつまでもグチグチ言うのは嫌だしな」
朱音の方を向き心の中で言う。ありがとうな朱音。