第7話 意外な決着
誰かが俺を呼んでいた。
「お客さん……お客さん終点だよ。起きてください」
ハッとして飛び起きる。目の前には困り顔の駅員さんがいた。どうやら隣駅まで来てしまったようだ。
電車も無いので仕方なく歩いて帰宅する。やることを全て終わらせて寝る頃には4時を過ぎていた。あぁ少しだけ眠るか。
再び眠りに着くとまたあの夢へと落ちていく。
【回想】
翔流が告白したの翌日、登校していると翔流が声をかけてくる。
「よぉ大地。今日は遅刻じゃねぇんだな」
「そう毎日遅刻するかよ。翔流こそ昨日、あんなに派手に振られたのに元気だな」
「へへへ……空音が好きな奴がどんな奴かは知らないけど、逆に燃えてきたよ。何としても振り向かせたくなった。俺に振り向かせられない女はいないと思い知らせてやるよ」
「翔流はポジティブだな。まあ頑張れよ」
すぐに諦めるだろうと思っていたが、休み時間は空音への地道なアピール。周りの男へは執拗なまでの牽制。
そして極めつけは空音の親友である瑠花を味方につけるべく迫っていく。いくら空音の為とは言え、瑠花への接触は流石に無意味に思えた。
様子を見に放課後に図書室へ行くと案の定、空回りしている翔流がいた。
それから半月ほど経ったぐらいで再び事件が起こる。
学校に突如現れた絶世の美女。転校生か?みんなの注目が集まる中、うちのクラスへと入って行った。俺は近くにいた空音に話を聞く事にした。
「今の誰?転校生?」
「ふふふ、違うよ。私も驚いたんだけど、ウチのクラスメートだよ」
うーん誰だろう。あんな綺麗な子はウチのクラスにはいないだろう?俺が困った顔をしていると空音がヒントをくれた。
「ヒント1。私と同じ吹奏楽部」
「えぇ~わかんないよ。次のヒント」
「ヒント2。私の大親友」
「えっ?阿東さん?えっ?全然違うじゃん」
「私もビックリしたよ。突然変わるんだもん。でも凄く可愛いよね」
「あっ……ああ」
確かに可愛い。だが空音じゃないとすると誰の仕業だ?そんな事を考えていると翔流がやってくる。
「どうだ。瑠花のやつ、可愛いだろ?へへへ……」
「あれはもしかして翔流の仕業なのか?まるで別人じゃないか」
得意気に翔流が答える。
「まあ正確に言うとウチの姉貴の仕業だがな」
空音と大地が翔流の姉について質問する。
「翔流君、お姉ちゃんいるんだ」
「翔流の姉ちゃんってあの美人でカリスマ美容師の?」
翔流が難しい顔で答える。
「美人かどうかはわからんがカリスマ美容師ではあるな。おーい瑠花ちょっとこっち来てくれぇ」
瑠花が、こちらにくるがやはり別人のような美しさ。空音が瑠花に質問する。
「ねぇ瑠花。翔流君のお姉さんってどんな人だった?」
「とても綺麗で優しい方でした。拙い私にも懇切丁寧にメイクや髪型など、教えていただき……私、憧れてしまいました」
「私も会ってみたかったな。そんな素敵なお姉さんいるなんて羨ましい」
「そうだ羨ましいぞ翔流」
空音や俺の意見に反論する翔流。
「お前らなんか勘違いしてないか?美容の腕は認めるがアイツは決して優しくなんかないぞ。女の扱いから男の在り方まで幼少期からスパルタで叩き込まれて来て、俺がどれ程ツラい思いをしたことか……。前の彼女と別れたのだって全部アイツのせいだしな」
翔流が女の扱いに長けているのにも苦労と努力があったんだなと思い知らされた。
今度は大地が翔流に質問する。
「そもそも、どうして阿東さんがイメチェンしたんだ。だいたい阿東さんと翔流の姉ちゃん接点ないだろう?」
「そりゃ勿論、瑠花がうちに来てたからだよ」
益々わかんない事を言ってくる翔流。
「なんで翔流の家に阿東さんが行くんだよ?」
「瑠花の探してる本がたまたまウチあったから来て貰っただけだよ。別にウチラ付き合ってるんだし、何ら問題ないだろ?」
「へっ?」「えっ?」
「ええっ~~」
クラス中が驚きで溢れる。顔を真っ赤にしてうつ向いている瑠花。誇らしげな顔の翔流に俺が駆け寄る。
「ちょっとこい翔流……お前は空音を狙ってたんじゃなかったのかよ」
「いや~確かに空音には一目惚れしたけど、瑠花と話してるうちにドンドン引き込まれていってだな……気付いた時にはマジ惚れしてた」
ハハハと余裕の笑みを浮かべる翔流。
「しかし……よく阿東さんを落とせたなガード固そうなのに」
「いや~苦労したんだぜ。どうやって告白したら良いかもわかんなかったし、最終的には姉ちゃんが押し通したようなもんなんだけどな」
「ふーん。何はともあれ幸せそうで良かったな」
「まあな。お前にもいつか春が来ると良いな」
「うるせぇー」
この時の俺達は瑠花を密かに狙う影に気がつけずにいた。