第61話 ファントム遭遇
下校時間になり、帰宅しているとグールアラートが鳴る。隊長から連絡だ。
「目黒君、重要な話があるからアジトまで来てくれないか?」
アジトへ行くとみんなが既に集まっていた。
「お待たせしました。重要な話ってなんですか?」
「まずはこの数日の調査報告だ。海瀬君宜しく頼む」
「はい。ファントムは数日に一度、数分間だけ人間を襲う習性があり、その瞬間であれば私の索敵にも映す事が可能なのは確認できました。また、ファントムの出現場所は人が多い場所が多く、一度出た場所には出現しないようです。以上です」
海瀬の説明が終わり、隊長が仕切る。
「次、聖司の報告を頼む」
「こっちは各所にトラップを設置しましたが、何が有効かわからない為、バラバラに仕掛けています。今の所、トリモチにコバエが数匹かかっていたぐらいで成果無しです。以上です」
隊長に再び話が戻る。神妙な面持ちで聞き入る俺と朱音。
「ファントムの攻撃方法は矢の様で喰らうと石化してしまうようだ。グール耐性がある君達でも数を喰らうと石化していくから遭遇した時にはすぐに応援を要請し、矢からは必ず避けるか退魔武器で弾き落とすようにしてくれ」
「はい。わかりました」
家に帰るが、ファントムの事が気になって仕方ない。遭遇した時に俺はどうすれば、俺の退魔武器では避けきれないのではないか?考えれば考える程にわからなくなってくる。無敵のファントムっていったい?
それから数日、何もない平和な日々が続き空音と買い物に行く日になった。
「大ちゃんお待たせ」
白系のふわふわした服に暖かそうで品のある黒いコート。空音のおしゃれ着は初めてみるけど、結構センスが良い。
「おっなかなか似合ってるな空音。それに胸のやつは確か」
「お父さんの形見のブローチだよ、良く気付いたね。安物なんだけど、お父さんが私に買ってくれた最後の物だからさ」
少し涙ぐむ空音であったがアーケードに着くとすぐにいつもの空音に戻っていた。
「買物って何買うの?」
「えっとね冬物の洋服とか何枚か見たいのとお母さんから頼まれた枕カバーあとは洗剤なんかの日用品なんかも買っときたいかな。ってなんで笑うの?」
「いやー空音らしいと思ってさ。ははは」
ある程度買い物を終えた時点で二人で昼食へ行く。こりゃデートさながらだな。そんな事を考えていると空音が質問をしてくる。
「あのさ大ちゃん。ちょっと聞きたい事があるんだけどさ」
「どうした?そんなに改まって」
「あのさぁー大ちゃんってその……朱音ちゃんの事どう思ってるのかなって思って……えっと……そのぉ……」
空音から見ると俺と朱音ってそんな風に見えるのか?
「いや朱音はただの友達だけど、そんな事が気になってたのか?」
空音が一瞬焦ったような表情になり、早口で言う人
「なんか朱音ちゃん男子中でも心を開いてるの大ちゃんだけみたいだし、もしかしたらって……あっいや……ななな何でも無いの……忘れて忘れて」
頬を赤らめる空音。まあ良いか。
「よし。食事来たみたいだし食べようぜ」
「うん」
昼食を終えてお店を出ると辺りが騒然となり、人々が逃げ回っていた。
「あれっ?何かあったのかな?」
不思議そうな顔で言う空音。どうやら空音には見えていないようだが俺の目の前には石化した人達と宙に浮かんだ不気味なマントに覆われたグールが1体。間違い無いあれがファントムだ。
ファントムと目があった瞬間、ロケットが耀き体の周りにバリアが張り巡らされると大量の矢が俺、目掛けて飛んでくる。矢はバリアによって防がれたがこんなに速いんじゃ避けきれるもんじゃない。そう思っていると今度は空音に向けて矢が発射される。
「空音ぇー」
周りがスローになる。矢は確実に空音の方向へ向かって来てる。まずいこのままじゃ空音が……空音が死んじゃう。空音のいない世界なんてもう嫌だ。頼む神様助けてくれ。頼む。
矢が当たったであろう瞬間。恐る恐る空音の方を伺うとそこには無傷の空音がいた。空音はオーラの様な物を纏っておりファントムを睨み付けている。それを見たファントムは怯んでおり、逃げるようにその場から消え去る。
ファントムが消えたあと、意識の飛んだ空音を間一髪の所で抱き抱えると、ベンチで休む事にした。暫くして目を覚ます空音。
「大丈夫か空音どこも何ともないか?」
「あっごめんね大ちゃん。私、気を失ってたみたい。疲れてるのかな?」
ファントムに襲われた事を覚えて無いのか?それにしてもあの時の空音はいったい何だったんだ。ファントムが怯むなんてただ事じゃないぞ。空音を家まで送ると朱音達の家に向かい報告する。
「隊長、連絡が遅れてすみません。先ほどファントムと遭遇しました」
「ファントムはどうした?それに被害は?」
「ファントムは大田原のアーケードに出現し、数人が被害に合いましたが現在は逃走中です。俺と空音も数発、矢を打たれましたが無傷です」
「どうやってあの矢を回避したのだ?」
「あの矢は思っていたよりもずっと速く、数発一斉に射撃されるので避けるのはかなり困難です。俺はロケットからバリアが発動して事なきを得ました」
「……バリアまで使えるとは驚いたな。空音君の矢も君が防いでくれたのかい?」
「いえ俺は間に合いませんでした。完全に当たったはずなのに空音は無傷でファントムも空音を見た瞬間怯んで逃げ出したんです。もしかしたら空音にも何か特別な力が………」
「目黒君。これは重要機密なのであまり詳しい事は言えないが君の考えている事は間違っている。空音はこの世界の最重要人物であり、特定管理下に置かれている。グールとの戦いに関わるのは今回が最後だ。わかったな」
いつになく強い口調の隊長に驚いた。そんなにまずい事だったのかな。
「今後はどうしたら良いでしょうか?」
「今回ファントムは君達がいた事もあり、思っているほど人を襲えていないはずだ。近日中に再び出現する可能性は高い。出てきた所を海瀬君の【空間転送】を使用し、異空間で向かえ打つ」
確かに固まっていたのは数人。いつもは数十人の被害が出ているらしいので少ないはずだ。
「恐らくあの矢を避けきるのは朱音でも難しいと思います。海瀬さんの幻術とかは使えませんかね」
「過去の資料によると幻術系については効果がなかったらしい。そうなると君と私の能力が鍵となりそうだな」
「隊長の能力っていったい?」
謎だった隊長の能力のベールが今、明かされる。