第54話 リベンジ
放課後、窓から瑠花がヤンキー女達に連れて行かれるのを見かける。近くにいた空音に声をかけると物凄い勢いで駆けていく。俺は助っ人にメールをしてから後を追った。
着いた先は旧体育館の女子更衣室。ここはヤンキー女達の溜まり場で普段は誰も通らない。
既に扉は閉められており、中からは瑠花の泣き声と空音の激しい口論が聞こえた。
「瑠花がいったい何をしたって言うのよ。さっさと出しなさいよ」
「こいつ生意気なんだよ地味で目立たないゴミ女だったクセにいきなりシャレこんで翔流の彼女なんて許せない。制裁だよ制裁」
「瑠花は今までコツコツ人の見えない所で苦労を積み重ねてきてやっと今、幸せになれたのにそれを壊そうとするなんて絶対許せない」
「じゃあ瑠花の代わりにお前が制裁を受けろよ。親友なんだろ?このバリカンで頭丸めろよ」
「えっ?……うん……わかった。その代わりに瑠花には、もう手出ししないって約束して」
「約束は守るよ」
「やだよ。ダメだよ空音ちゃんやめてー」
次の瞬間バリカンのスイッチが入る音がする。辺りを見渡しても翔流の姿がない事に焦り、渾身の力で殴り付けると扉が壊れる。
「お前らいい加減にしろよ。空音や阿東さんは何も悪い事してないだろ?」
扉の向こうにはヤンキー女3人衆と大泣きの瑠花、バリカンを片手に構える空音。
「こいつら最近、出しゃばってんから落とし前なんだよ。邪魔すんじゃねぇよ。お前なんかに私達の気持ちがわかるかよ」
「俺だってお前らの気持ちは何となくわかるよ。学校のアイドルである翔流に彼女が出来てそれが想定外の阿東さんだったんだからな。でもこんなやり方はフェアじゃないだろ」
黙り混むヤンキー女達だが、後ろから声がかかる。
「まあ公共物を素手でここまで破壊するような奴にフェアとか言われても説得力がまるで無いけどな」
後ろから翔流が現れる。
「遅せぇじゃん何してたんだよ」
怒り気味の俺に翔流がサラッと答える
「ヒーローは遅れて登場するもんだろ」
絶対にさっきからかった腹いせだなこりゃ。
「俺が来たからには好きなようにはさせないぜ」
翔流の言葉に涙ながらに逆上するヤンキー女。
「これは落とし前なんだよ。邪魔すんじゃねぇ」
「翔流君。これは私達の問題だから。私がボウズになれば二度と瑠花に手出ししないって言ってくれてるし、制裁は私が受ける」
なるほどと言った顔の翔流が空音に近づき言う。
「そう言う事なら自分でやるより他人がやった方が綺麗に出来るだろ。俺が上手にやってあげるよ。ほらいくぜ」
そう言うとバリカンのスイッチを入れ自分の髪の毛を刈っていく翔流。
「今回の件はどう考えたって俺の責任だ。俺のボウズ頭で丸く収めてく………」
翔流が話を治めようとした所を俺が止める。
「ちょっと借りて良いか?」
「おまっ……ちょっと待てよ」
翔流からバリカンを奪い取ると自らの髪を刈る俺。
「空音の分もこれで勘弁してくれ。あんた達の気持ちはわかるけど、こんな形で制裁したって一生心に傷が残るよ……お互いにさ」
「うっぐっ………ヒックヒック」
俺の言葉に何も言い返せずに泣いているヤンキー女達。もうこんなバカな事はしないだろう。
「じゃあ帰ろうか瑠花。大地達も行くぞ」
翔流が先陣をきって歩き出す。
「翔流君、目黒君、私のせいでごめんなさい」
平謝りする瑠花に翔流が答える。
「ウチラの事は気にすんなよ。瑠花達が無事だったんだし、丸く収まったんだからさ。でも何で大地まで坊主にしたんだよ」
「いや一人だけ坊主だと寂しいと思ってさ」
本当は過去に翔流任せで何も出来なかった自分が情けなくて、悔しくてモヤモヤしてたんだよな。ある意味リベンジ成功か。
俺の言葉につっかかってくる翔流。
「なんだよそれ。しかしお前、全然坊主が似合ってないな。こう言うのはある程度、ルックスが良い奴がやらないと逆にダサくなるんだよ」
高笑いの翔流。悔しいのでアレをぶつけてみることにした。
「お前なんて10円ハゲじゃねぇかよ。ハゲに言われたかぁーねぇよ」
俺の言葉に動揺を隠せない翔流。
「えっ10円ハゲ?あれ?あれ?あっー。マジかここ本当にヤベーよこれマジ。あっ瑠花笑うなよ」
あれ?確か前の時は右後頭部にあったはずなのに今回は左後頭部にハゲがある。なんだろうこの違和感、考え込んでいると空音が突然、俺の服の袖を掴んでくる。
「ありがとうね、大ちゃん。私、本当は恐かったんだ。
坊主になったら明日からどうしようかとかママにも怒られるのかなとか受験どうしようとか色々考えちゃった。それに………」
何かをボソボソ言っていた様だが聞き取れなかった。
「それに?」
「ふふふ………なんでもない。大ちゃんのその頭、私は結構好きだよ」
「なんだよそれ。慰めにもなってないぞ」
空音が俺に悪戯に聞いてくる。
「触って良い?」
「毛が落ちるからダメ」
頑なに触られるのを拒否する俺に残念がる空音。そのまま家へと帰宅する。
翌日、学校に行くと復活を果たした朱音が顔を真っ赤にして大爆笑する。
「ぶっ……あはははは………お前らマジ受けるんですけど、二人で出家でもしたのかよ。はぁはぁはぁ……ぷぷぷ………ククク……ゴホッゴホッ」
「そんなに笑う事ないだろ?」
朱音に俺がムキになって言うと
「あ~こっこっち見んなよ……ぶふっあははははぁ」
ああもうだめだ。真優美の奴も一度スイッチ入ると止まんなかったもんな。名誉挽回とばかりに翔流が朱音に話しかける。
「朱音ちゃん、大地はともかく俺は別におかしくないだろ?なんでそんなに笑うんだよ」
「ククク……わっ…私を呼ぶときは朱音様だろ。ぶふふふふっ………お前のがヤバイんだよ……くろ……くろ………黒塗り10円ハゲ君。あはははは……」
そう翔流はハゲている部分をマジックで塗っていたのだ。他の奴は気付いて無かったのに最悪だな。
「あのごめんね翔流君。私のせいだから」
謝る瑠花に別に良いんだと言い残し、教室を出ていく翔流。朱音恐るべし。