第50話 金魚の大吾
流石に昼過ぎまで寝てしまい起きると妹の夏希が声をかけてくる。
「ねぇねぇお兄ちゃんお兄ちゃん。今朝の大きな地震なんだけどさ。なんかこの町だけみたいなんだよ。隕石が落ちたとか不発弾が爆発したとか色んな噂があるみたいなんだけど、痕跡が無くて原因もわかって無いみたい。お兄ちゃんはなんだと思う?」
………あぁ絶対に昨日のあれだ。海瀬さん影響が出てる言ってたけど、こう言う事なのか。大丈夫だよなきっと。
「うーん。なんなんだろうな。痕跡が無いんじゃ原因もわからないんじゃ」
「そこを突き止めないと。お昼食べたら一緒に隕石探しに行こう」
「へ?」
夏希に連れられて城址公園へ向かうと既に人だかりだった。どうやら昨日の聖司の爆撃を隕石と勘違いした人が多数いたようだ。
今朝、穴を埋めた箇所やグールとの戦いで抉れた箇所は綺麗に直されていた。きっと海瀬さんがやってくれたのだろう。
「もう大地お兄ちゃん起きるの遅いから先越されちゃったじゃん」
バカでかい声で叫ぶ夏希。でもあれ?大地お兄ちゃんなんて普段呼ばれた事は今まで一度も無い様な……。
すると広場の方から走ってくる女性が………。
「あれっ?大ちゃんも隕石探しに来たの?」
空音である。夏希のヤローこれを狙って……。
「ああ。ウチラも隕石を探しに来た所だけど……」
すると夏希が話を遮る。
「ごっごめん。私、友達と約束してたの忘れてた。んじゃそう言う事で……空音お姉ちゃんまたね」
そう言うと夏希はニタニタしながらそそくさと消えてしまう。あんにゃろう結局、隕石じゃなく俺と空音引き合わしたかっただけじゃねぇか。
「空音は何しに?隕石とかはあんまり興味無さそうだよな」
「私はね。海音に頼まれてここの金魚達に餌をあげに来たんだ。今日は海音、祝日参観らしいから」
「ふーん」
確かにこの城址公園には小さな池があって金魚が繁殖している。まあ空音らしいと言えばらしいが……夏希の奴はどこからそんな情報入手したんだ?
「大ちゃんもやってみる?ほらみんな寄って来て結構可愛いんだよ」
餌の周りには10センチはあろう大きな金魚が寄ってきていた。これ本当に金魚なのか?その中でも一際大きな鯉の様な金魚に唖然とする。
「何コイツ。本当に金魚なのか?なんか鯉みたいなサイズだけど」
「あれ?覚えて無いの?これ大ちゃんが前に逃がしちゃった大吾だよ」
「えっ大吾?」
まだ小学生だった時にお祭りで取ったお気に入りの金魚。体に【大】の模様があってよく色んな場所をつれ回してたんだけど、この池の前で落としちゃって行方不明に……。すでに死んでしまったものだとばかり思ってたのに。
「本当だ、大吾だ。ははっお前こんなに大きくなっちまいやがって……死んだと思って心配してたんだぞ」
涙の再会に空音が横で微笑んでくれる。
「……でもそれだけじゃないんだな。ほらこれみて」
あれ?【大】の文字の普通サイズの金魚が数匹いることに気づく。
「これってもしかして大吾の子供?」
「残念。大吾の孫だよ」
「へーお前もうお爺ちゃんになったのかすげぇな。感激だよ」
生きてる事だけでも奇跡だったのに孫までいるなんて……良かったな大吾。
「ふふふ。喜んで貰えて良かった。大ちゃんこの後は何か用事……そっか隕石探しに来たんだったもんね」
「いや夏希の奴にそそのかされて来ただけだよ。どうせ隕石なんて見つかりっこないし、何かあるなら付き合うよ」
「えへへ。実は今日スーパーカネオカの特売日で荷物持ちお願い出来ないかな?」
「なんだぁ。そんな事ならお安いご用だ」
空音と二人でスーパーへと向かう。
スーパーに入ると明らかに不自然な事に気が付く。そっか今日は私服だったんだ。学校の帰りなら頼まれたからで済むがこりゃどっからどうみても新婚かカップルだぞ。
こんなとこ誰かに見られたらきっとすぐ噂になるに決まってる。まずったな。そんな事を考えている俺とは裏腹に空音は楽しそうに特売品をカートへと詰めていく。
「なんか楽しそうだな」
「えっ?だっだってこれなんか通常の3割引きだよテンション上がっちゃうよ。あっあとこれとこれもね……えへへ」
喜ぶ空音を見て元の世界への帰還の意志が揺らいでいるのがわかった。このまま、この世界に空音とずっと……。
ブブ……ブブ……
突如グールアラートが通信が入る……こんな時に……。
「目黒さん緊急事態です。現在、朱音さんがグールと会敵中ですが相手が非常に強く、逃げる事も難しい状況です。至急東海岸へ応援に向かって下さい」
緊急事態……仕方無いか。
「ごめん。空音の事は本当に大切に思ってるし、愛してるけど、急用を思い出しちゃって急いで帰らなきゃならなくなっちゃったんだ。本当にごめん」
「えっ?あのその……ちょっちょっと大ちゃん?」
突然の事に驚きを隠せない様子の空音。申し訳ないと思いつつもその場を後にして海岸へと急ぐ。