第49話 天使
隊長達の話に納得のいかない俺は口を挟んだ。
「あのさ、あんた達っていったい何者なの?討伐だけじゃなくグールの捕獲や研究って……」
バツの悪いのか一瞬言葉に詰まる隊長。
「いやーーすまんすまん。本来は機密事項なのであまり公言出来る事ではないんだが君達は共に戦う仲間だ。知る権利があると思う」
「隊長っそれは……」
「大丈夫だ、海瀬君。まずは朱音君だが、君と似たような境遇でこの世界に来ている。その素性や目的は教えられないがね」
朱音と目が合ったが逸らされてしまう。
「次に私達だが、我々はそもそも人ではなく神の命を受け地上へ舞い降りた天使である」
唖然呆然とする俺をよそに朱音が的確なツッコミを入れる。
「天使だって言ったけど、羽も無ければ輪っかもないよ?何か証拠はあるの?」
「羽があるのは一部の天使だけで我々の様に日常に紛れて調査を行う天使には羽はないのだ。輪っかについても今はコンパクト化されていて体内に埋め込む事が主流となっている。まあ証拠と言われると難しいのだが、我々天使達はダメージを受けても即時修復する事が出来る。君達以外の物からならね」
聖司に殴りかかろうとする朱音だったが間一髪、留まった。確かにあの棘グールの一撃を受けたにも関わらず聖司は傷すら負っていない。
「でもそれって言ってしまえば無敵じゃないですか。隊長達だけでもグール殲滅出来るんじゃないですか?」
「そう上手くはいかないのだ。グールからのダメージは修復出来るが、修復するにも大量のエネルギーが必要となる。我々のエネルギーであるAPが尽きてしまえば我々天使は消えてしまうのだ」
それを聞いた朱音はガッカリした顔で言う。
「なんだ無限に再生出来る訳ではないのね」
「その通りだ。一度失ったAPについては基本的には天界に戻るまで補給は出来ず、天界には任務が完遂するまでは帰れない。まあ再生に関してもそうだが、力を酷似しても同じようにAPが消費されるわけだが分かっているよな聖司?」
「ははは、僕はこれでも【大天使】ですよ。当たり前じゃないですか」
「なるほどね。グール退治を私達にお願いしていた裏にはそんな理由もあったのね」
「隠していて申し訳なかった。そんな訳で朱音君、目黒君引き続き宜しく頼むよ。それと聖司、お前の爆撃による装甲破壊は特に燃費の悪い力だ。適材適所で必要最低限に押さえるように……私からは以上だ」
アルディラが通信を切ると海瀬がコッソリとグールアラートで話しかけてくる。
「聖司君ちょっと良いですか?」
「ん?なんだよ愛。俺様は疲れて……」
相変わらず偉そうな聖司であったが、海瀬はスラスラと説明する。
「先程の【大爆撃】ですが、私の想定外の威力だった為、空間遮断を越えてこの世界に影響を及ぼしています」
「あぁ悪い悪い気を付けるよ」
「今回、聖司君を強制転送した事もあり、想定以上のAP 消費があった為、落とし穴を埋める力がありません。道具と土砂を転送致しますのでご自分で埋めて来て下さい」
空から大きめのスコップと大量の土砂が降ってくる。
「えっこれで穴埋めすんの?愛の能力だったらすぐに修復出来るじゃん。使いすぎとか気にしないでさぁ」
「APは計画的に使わないと……。今日は私、既にオーバーワークしてますし、これからの戦いで私の【透視索敵や【想像錯覚】が使えなくなったら皆さん困りますよね」
「ででで……でも、こんなスコップじゃいつ終わるかわからないじゃん」
焦りだす聖司。額に汗が滲んでいる。
「私の計算によれば昼までにはなんとかなると思います。明日は祝日ですし、聖司君なら大丈夫。ファイト。でも、もしサボったりしたら……わかってますよね」
どんどん青ざめて行く聖司。海瀬さんは普段は大人しいが怒らすと非常に危険だと心に刻む俺であった。
「私、明日の準備がありますのでこれで通信を切らせていただきます」
当たりを見渡すと朱音の姿が無い……逃げられたか。結局、聖司と一緒に穴埋めを手伝う羽目になった俺。
「二人でやれば半分の時間で終わるって頑張ろうぜ」
「目黒っちって本当は良い奴なんだな。助かるよぉ」
泣きながら抱きついてくる聖司だが俺は男に抱かれて喜ぶ趣味はないと聖司を軽くかわす。
作業を始めようとすると穴の中にあったグールの残骸が浮き上がり俺の目の前で静止した。
ポケットからロケットペンダントを取り出すと残骸に呼応しており、ロケットが耀き出した瞬間に残骸を一気に飲み込んで行く。
「目黒っち。いったい何をしたの?」
「いやわからないよ。コイツが勝手に吸い込んだんだ」
こんな事、今まで無かったし何が起こったのか唖然とする大地。変化があった所と言えば装飾石が紫から青になった事ぐらいか。
「なぁ聖司。グールの残骸なんかを飲み込んじゃったけど、これって大丈夫なんだよなぁ?」
「わかんないよ。こんな事、初めてだもん」
聖司も初めてみる現象らしく書籍にも事例はないらしい。まあ、今のところは異常無さそうだし、吸い込んだのもただの残骸だもんな。きっと大丈夫だろう。そう自分に言い聞かせると穴埋め作業を開始した。
二人で黙々と穴埋めを行い、日の出までに作業が完了した。
「聖司お疲れ。いや疲れたなぁ」
「おいらもヘトヘトだよ。目黒っちにはマジ助けられたよぉ。本当にありがとう」
珍しく素直な聖司。たまには良いよな。
「グール戦の時は俺、全然活躍出来なかったからな。お互い様だよ。しかし聖司の能力って凄い威力だよな」
「へへへ……強力な力なんだけど、扱いが難しくてついついやり過ぎちゃうんだよね」
聖司の能力はだいぶ使い勝手の悪い力らしい。
「いったいどんな原理であんな事出来るの?」
気まずそうな聖司。
「それは企業秘密。目黒っちにもそれは教えられない。言ったからって使える訳じゃないけど、バレると罰則があるからさ」
罰則ねぇ……普段チャランポランな聖司がここまで拒む物っていったい?
「そう言えばさぁ……穴埋めサボってたら聖司ってどうなってたんだ?」
軽い気持ちで話しかけると聖司の顔が青ざめていきブルブルと震え出す。そんなに恐ろしい事なのか?
「ごっごめん。やっぱり良いや。俺、こっちだからじゃあな」