第42話 すり替わる記憶
シャワーをして学校へと向かうと校庭の前で翔流に声を掛けられる。
「よう大地。ちょっとだけ良いか?」
そのまま学校裏に連れて行かれると翔流がいきなり頭を下げる。
「大地、この前は悪かった。俺、イライラしててお前の気持ちも知らずに酷い事言っちゃって……」
あぁ……あの日の事か。俺は全然気にしてないのにな……
「ああ、そんなの全然気にしてないから……ああぁーーー!!」
そうだ。あの日、俺を呼びに来たのは鈴政だ。だったら翔流は鈴政の事を覚えてるんじゃ……。
「突然叫んだりしてどうしたんだよ大地」
不思議そうな顔をしている翔流。
「あのさ。この前、翔流が俺に【集合】かけた時、誰に頼んだか覚えてるか?」
「今はそんな事どうでも良くないか?」
不満そうな翔流をよそに大地が答える。
「頼む。俺に取っては重要な事なんだ教えてくれよ」
「たくっ変な奴だな。あの時はたまたま廊下にいた【天真】に確か頼んだけど」
鈴政じゃない?しかも天真っていったい……
「天真って誰だよ」
呆れ顔の翔流が言う。
「お前、自分のクラスメートも忘れちゃったのかよ。本当に大丈夫か?天真は天真だ。【潮田 天真】」
天真なんて聞いた事が無い名前だ。いったい何者だ?取り合えず誤魔化しとくか……
「そうか天真か。ハハハ……忘れる訳ねぇだろ?」
「ったく冗談キツいぜ大地。じゃあ俺はそろそろ行くからな」
あぁ……全然記憶に無い。マジで忘れちゃったのか?……いやいやいや呼びに来たのは間違いなく鈴政だし、そもそも天真なんて奴の記憶はやっぱり無いしな。
キーンコーンカーンコーン……ホームルーム開始のチャイムが鳴り響く。
「いっいけねぇ急がなきゃ」
急いで教室へと向かう大地。
「はぁ……はぁ……はぁ……ギリギリ……痛たっ」
魔王が出席簿で大地を頭を叩く。
「アウトだよ。最近早く来てたから見直してたのに残念だ」
ツイてねぇーー。まあ遅刻してるのは事実だし、仕方ねぇか。
「じゃあ出席取るぞ……」
「阿東 瑠花……伊藤 貴史……岡本 信也……菅原 亮太……」
あれっ潮田なんて奴やっぱりいねぇじゃねぇか。翔流にからかわれたのか?
「……日吉 朱音……は今朝連絡があって休みだったな……次、目黒 大地……」
朱音休みか。聞きたい事いっぱいあったのにな………。
「こらー目黒。いるなら返事ぐらいしろぉー」
「あっすっすいません」
はぁ……ツイてないな。ホームルームが終わり、空音に天真の事について聞いてみる。
「なぁ空音。お前、潮田 天真って知ってるか?」
空音が不思議そうな顔でこちらを見る。やっぱり翔流のいたずらだったのか?
「……天真君は昨日までウチのクラスにいたでしょ?なんか時々変な事を言うよね大ちゃん」
昨日までって……えっ?困った顔をしていると空音が怒りだす。
「私をからかってるの?大ちゃんあんなに仲が良かったじゃない。いくら突然転校になったからってそう言う冗談は良くないよ。もう私行くからね」
ぷいっとして行ってしまう空音。どうやら冗談でも嘘でも無さそうだ。いったいどうなってやがる。それに朱音の奴、急に休むなんて……。
モヤモヤした気持ちで一日が過ごす。放課後になり朱音の家を目指す。
「確かこの通りを右に……」
入り組んだ路地を抜けるとまた同じ場所へと戻って来てしまう。
「あれっおかしいな。また同じ所だ。ここ通るのいったい何度目だよ?」
その場に座り込むとポケットからロケットが落ち激しく耀き始める。
「なっなんだよ……おい」
光が治まると朱音の家の前にいた。
「あっ………あれ?ここは朱音の家」
突然の事で一瞬固まる大地であったが気持ちを整理する。
「突然押し寄せたりしたらなんか言われるかな?」
不機嫌になり文句を言われるかも知れない。そんな事を考えながらも自身の覚えた不安を確認せずにはいられずにチャイムを鳴らす。
ピンポーン
緊張の面持ちで待つ大地。扉が開くまで大した時間では無かったのに異常に長く感じる。
暫くするとバタバタと廊下をかける音と共に扉が開く。
「あれっ朱音さん随分お早いご帰宅で………えっ?」
出てきたのは少し身長の低い小学生高学年ぐらいの三つ編みヘアーに大きな丸眼鏡が特徴の女の子。可愛いと言うよりかは凛とした綺麗な顔をしており、大人っぽい感じに思えた。
俺に気付いた女の子は焦った顔をしてそのまま扉を閉めるとバタバタと駆け足で誰かを呼ぶ声が……。
「たっ隊長ぉーー隊長ぉーー。扉の向こうに知らない男の人がいます。隊長ぉーー」
ん?なんか不味い事になったかな……?ここから逃げ出した方がなんて考えていたところ、玄関からあのフード男アルディラが出てきた。
「あっ……これは目黒君。良くこの家の場所がわかったね」
一瞬驚いた感じのアルディラであったが、そこは大人の対応ですぐに冷静になる。アルディラの後ろからコッソリとこちらの様子を伺っている女の子。
なんか俺って警戒されてる?そんな事を思いつつもアルディラの質問に答える。
「一度来ているので……あと、昨日は突然飛び出してすみませんでした」
「あんな話をされたらパニックになっても仕方無いさ。こちらこそ君の気持ちを考えずに話してしまい申し訳なかった。まあ立ち話も何だから良かったら入ってくれたまえ」
どうやら怒ってはいないようだ良かった。現状ここしか元の世界へ戻る為の手掛かりも無いし、少し話を聞いてみるか。