第37話 馴れ初め
その日、俺は夢をみた。真優美との初めての出逢い。つまり、馴れ初めである。
【回想】
高校入学後、空音に振られてから数日経った雨上がりの日。何も手につかず俯いて下校していると後ろから女性の怒鳴り声が聞こえる。
「コラーそこのクルマぁ~止まれぇ。私の大切な服を汚しやがってぇー弁償しろよぉー」
ったく服が少し汚れたぐらいで騒ぐなよな。これだから最近のヒステリック女子高生は……。
そんな事を考えていると空から何かが飛んできて俺の肩に直撃する。
「痛た……なっなんだよこれ」
当たったのはパック入りのオレンジジュース。中身が入っており、ワイシャツがビショビショに……。はぁーついてない。後ろを振り返ると驚いた顔をした女子高生が駆け寄ってくる。
「ごっごめんねぇ。私たらついカッとなっちゃって。ほらっすぐ脱いで」
「えっあっ……」
「早く早く……」
服を無理矢理脱がされる俺。
「あちゃーやっぱシミになっちゃうかな。クリーニングして落ちなかったら私、弁償するからさ」
「あぁ別に良いですよ、まだ換えもいっぱいあるし」
話すと意外にも気さくな感じだ。
「あんた見かけによらず大人だね。私だったら殴りかかってるとこだよ」
「ははは……」
話を伺うと車に泥水をかけられた事に腹を立てて持っていたジュース投げつけたとの事。
「私ってカッとなると周りが見えなくなっちゃうんだよね……本当にごめんね」
「ああ気にしないで下さいよ。水を掛けられたら誰だって頭に来ますもんね。気をつけて貰えればそれで良いですから」
シャツを受け取って帰ろうとするとポケットからエンゼルランドのチケットが落ちる。
「ああっー。それってエンゼルランドのチケットじゃん。数時間並ばないと手に入らないレアチケットでしょ?」
「あっ……ああこれか。一緒に行く予定だった人が行けなくなっちゃって……もし良ければ何かの縁ですし、あげますよ」
「えぇーメッチャ嬉しいし、超行きたい………だけどやっぱりそれは悪過ぎる。私、シャツまで汚してるし」
「それは別に良いですよ。どうせ一緒に行く人もいないですし、捨てるつもりでしたから」
「一緒に行く予定だった子は彼女?振られちゃったとか?」
ズケズケ言いづらい事聞いて来る女性だな。
「彼女とかじゃないですけど、まあ好きだった子です。彼氏が出来たみたいなんで、実質振られたようなもんですけどね」
なに見ず知らずの女にこんな事言ってんだろ俺。暫く困った顔をしていた女子高生が突然口を開く。
「うーん、わかった。じゃあ私が一緒に行ってあげる」
「えぇ?なんで?」
まさかの発言に慌てたふためく俺。
「なんでって行く人いないんでしょ?私もチケットは欲しいけど、只で貰う訳にはいかないしさ。あっ心配しないで私、今は彼氏とかいないからさ」
「いや、そう言う事を言ってるんじゃないんだけど」
「あっそっかそっか。自己紹介がまだだったよね、私は東校3年の【井原 真優美】よ。呼ぶときは真優美で良いわ。あんたは?」
「えっと北校1年の目黒大地です」
「ちょっと待っててね……はい、これ。私の携帯番号とアドレスね。今週土曜日に行くから待ち合わせ場所とか連絡頂戴」
携帯番号とアドレスを受け取る俺。
「そっそんな急に言われても」
「男がそんな女々しい事言わないの。それに男が女性に合わせるのは当然でしょ?じゃあ連絡待ってるからねバイバイ」
はぁー。行っちゃったよ。なんか凄え女に目をつけられちまったな。
まあせっかくお金貯めて買ったチケットを無駄にするよりは良いか……と軽い気持ちで考えていたら……それは大きな間違いだった。
デート当日はダメ出しの嵐。
待ち合わせ場所にて……
「もう探しちゃったよ。なんで待ち合わせ場所がエンゼルランド最寄駅なの?人多いし、わかりづらいでしょ。普通、乗り継ぎ駅とか別な場所で待ち合わせるじゃん。本当に考えが浅はか……」
「………すみません」
服装に対して………
「だいたい何その服装。どこのメーカーだかもわからない安物の上着にボロボロのジーンズ。それ全然ダメージ古着とかじゃないからね。本当にセンスないなぁ。ブランド物とか持って無いの?」
「………はい」
エンゼルランドにて…………
「次どこ行くの?えっ考えてない?ふざけんじゃないわよ。デートのプランニングは男の役目よ。これじゃ効率よく回れないじゃない。ほらパンフレット貸して。私が決めるから」
「……すみません」
結局、真優美が主導権を握り、休む間もなくアトラクションを乗り尽くしたが、実に散々な言われようだったな。
別れ際に真優美がトドメのダメ出しをしてくる。
「今日一日一緒にいてわかったけど、あんたって男としての魅力が感じられないし、女ってもんを全然理解してないわ。こりゃ振られるわけだよ」
……最後までダメ出し。まあこれで終わりだし、良い経験になったか。
「なんか上手くエスコート出来ずにすみませんでした。楽しくなかったですよね?」
俺の言葉とは裏腹にニコニコしながら話す真優美。
「いや結構楽しめたよ。アトラクションも制覇出来たし、久し振りのデートだったからね。もうちょいあんたがしっかりしていれば尚、良かったけど……うん、よし決めた」
「ん?何をですか?」
ジュースを飲みながら真優美の話を聞いていると……
「あんたを私の彼氏にしてあげる。私が思い描く理想の男性に鍛えてあげるよ」
ぶっーー。あまりの出来事にジュースを吐き出した俺。
「ゴホッゴホッ……そっそれってつまり俺達、お付き合いするって事ですか?」
「そうだよ。嬉しいでしょ?こんな可愛い彼女が出来て」
確かに美人だし、スタイルも良いが性格にかなりの難あり……断るなら今しか。
「いや~流石に僕たち知り合ったばかりですし、真優美さんとは釣り合わないと思うんですが……」
真優美が笑いながら返す。
「ははは……なんだそんな事を気にしてたの?私、そんなの全然気にしない人だから大丈夫よ。あははは」
そっそう言うんじゃないんだが……。そんな事を思っていると真優美が俺を呼ぶ。
「ねぇ大地………」
チュッ
振り返った瞬間。突然キスをされ完全に固まる俺。
「ふふふ……これで今日から恋人同士だよ。私、浮気は許さないからね。じゃね」
固まる俺には目を向けず、走り去っていく真優美。これが俺と真優美との馴れ初め。
【回想終了】
後に知った事だが真優美は誰に対しても高圧的であり、逆らう物は全て蹴散してしまう事から東校では【高嶺の棘】と呼ばれていた。
勿論だが彼氏となった俺も周りから一目を置かれる事になった事は言うまでもない。




