第33話 二度目の初恋
翌日になり、早めの登校をするが空音の姿はない。どうやら体育館で最後の調整をしているようだ。
屋上に上がり辺りを見回していると横から魔王が出てくる。
「あれっ先生?吹奏楽部の準備は行かなくて良いんですか?」
「おぅ目黒か。練習は吹奏楽部に一任してあるし、私の出る幕じゃない」
相変わらず凄ぇ信頼関係だよな。まあ一応忠告しといてやるか。
「先生。あんまり派手にやり過ぎると、あとで呼び出されますよ……特に教頭あたりに」
「ははは問題ないよ。最後の舞台だし、私はやりたいようにやらせてあげたいんだ。勿論、責任は全て私が取るから安心しろ」
厳しいとばかり思っていたけど、生徒の事を本当に良く考えてくれてるよな魔王。まだ若いのに尊敬するよマジで。
全校集会の時間になり体育館へと向かう。しかしこの学校の校長の話は何度聞いても長い。社会人になった俺でもアクビが出るほどだ。よしやっと終わるな。
「続いて吹奏楽部による演奏発表を行います。3年生は今日が最後の舞台となりますので皆さん盛大な拍手で迎えて下さい」
パチパチパチパチパチパチ
懐かしいポップスの曲に心が踊り出す。あの頃のままだ。そしてソロパートが始まる。
「まずはフルート担当。木村 恵美さん………」
次々と紹介されていく。
「アルトホルン担当。阿東 瑠花さん。圧倒的なセンスと抜群の安定感でコンクール金賞に導きました」
瑠花の演奏。やはり、何度聴いても圧倒的に上手い。料理も上手いし、勉強も出来るし、なんか全てを極めているって感じだな。
「ソプラノサックス担当。富良野 空音さん。持ち前の明るさとパワフルな演奏で吹奏楽部を盛り上げてくれました」
空音の演奏が始まると再び鼓動が高鳴るのがわかった。そう……これが俺の初恋の瞬間。この時から俺の中で空音は特別な存在になった。
演奏が終わっても歓声がなりやまず、アンコールの声が響き渡ると魔王が橋台へ上がる。
「みんなアンコールありがとう。今、校長先生からもう一曲やっても良いと許可がおりたので続けてやっちゃうぜ。吹奏楽部カモン。パシッ」
そして魔王作曲の凄い曲は会場は異常なまでの盛り上がりをみせる。
「ほらお前達踊れ踊れ。吹奏楽部も負けんじゃないよ」
やはりあの時と同じで校長や教頭の制止は効かず、最後まで演奏は止まらなかった。
教室に戻り机に持たれかかると色々と考えてしまう。この過去の世界に徐々に順応している俺自身に罪悪感を感じ、空音と何度か目があったが目を反らしてしまった。
放課後になり、空音に会わないように急いで帰ろうとしていると過去と同じように魔王に捕まり演奏会の残りの片付けを手伝わされる羽目に……わかってたはずなのに。
そこには当然、空音も一緒にいた。空音と目が合うが苦笑いの俺。空音と俺だけ最後まで片付けに付き合わされ、全てを運び終えるとすっかり真っ暗になっていた。
これ以上、空音に関わるのは危険と判断し、空音のいないはずの正門からそそくさと帰る事にした。