第31話 空音の恩返し
翌朝、台所に行くといつも起きるのが遅い夏希が既に朝食を食べていた。
「おはよう。早いな今日。朝練か?」
「おはよ。今日は朝練はないけど、なんで?」
「何でってお前いつも時間ギリギリまで寝てるじゃんか。なんでこんなに早起きなんだよ」
ニヤニヤとする夏希。嫌な予感しかしない。
「ふふふ……それはだね……お兄ちゃんの為だよ。まだ付き合ってないんでしょ?それとなく空音お姉ちゃんに近づいて探りいれてあげるからさ。私って本当に良き妹」
お節介妬きもここまでくると超迷惑だな。
「夏希いい加減にしろよ。お前の出る幕じゃないし、そんな事されても迷惑なんだよ」
流石に頭に来てつい強い口調で夏希を怒ってしまう俺。
「酷ーい。私、折角早起きしたのに……お兄ちゃんのバカーー。もう知らないんだから」
そのまま怒って出ていってしまう夏希。少し言い過ぎたかな。罪悪感を感じていると夏希が戻ってくる。
「あっごめん夏希。俺、ちょっと言い過ぎた。その夏希の気持ちは嬉しいんだけどさぁ……そのぉ……」
「そんな事、どうでも良いから早く行きなよ。彼女待たせるなんて男として最低だよ」
「………はい?」
急いで仕度して外に出ると家の前に空音が立っていた。
「あっおはよう大ちゃん」
笑顔で手を振る空音。
「おぅ……おはよう。俺らって待ち合わせとかしてたっけ?」
「ううん。してないよ。今日は私が大ちゃんと一緒に学校行きたくて勝手に待ってたの」
「待ってるって知ってたらもっと早く出てきたのに……」
「ふふふ……私も今来たとこだから」
「なら良いけどさ。んでどうして俺なんかと一緒に行きたかったの?」
思い出したように鞄を漁る空音。
「あっそうそうこれ………はい。この前はありがとう、つまらない物だけど良かったら食べて」
「これってクッキー?しかも手作りじゃん。空音が作ってくれたの?」
「うん。昨日、海音と一緒に作ったんだ。学校で渡すと目立っちゃうかなって思ったからさ」
「なんか気を使わせたみたいで悪かったな、食べて良い?」
「勿論だよ。食べて食べて」
モグモグモグモグモグモグ……美味しい。なんて言うか素朴な甘味だ。食感もサクサクしてて本当に良いかんじ。
「凄く美味しいよ。でもこれって何のクッキー?」
「ふふふ……何でしょう?」
「当たったら何かおごってくれる?」
「外れたら何かおごってくれるなら。でも難しいよ」
俺が悪戯に言うと空音も悪戯に返してくる。
「うーん。じゃあヒント」
「3種類の野菜が入ってるよ御手付き一回までね」
「望むところだ。まず1つ目はニンジンだろ二つ目はカボチャ」
「うん、ここまでは正解。次が難しいんだなぁ~」
「野菜だろ。うーんフルーツトマト」
「ブッブー違います。甘酸っぱいって点ではなかなか良いところ行ってるけどね。ヒント2 野菜を使ったジャムが入ってるよ」
甘酸っぱい野菜のジャム……他に思い当たるのが確かあったな……あれはえっとえっと
「わかったルバーブだ。ルバーブのジャムが入ってるだろ」
自信満々で答える俺。空音も意外な回答に驚く。
「大ちゃん凄~い。ルバーブなんで珍しい野菜なんで知ってるの?」
「ウチのばーちゃんがルバーブジャムでパイをよく焼いてくれたからだよ。ばーちゃん様々だな、さ~て何をおごって貰おうかな?」
勝ち誇った顔の俺であったが笑顔で空音が言う。
「ふふふ……残念だけど不正解」
「えぇ~絶対に当たったと思ったのにぃ」
「正解はイチゴのジャムでした」
「イチゴって果物じゃん。それ反則じゃねぇ」
「植物学的にはイチゴは野菜だよ。ちなみにメロンやスイカも野菜」
「そんな豆知識よく知ってよな……頼むから安い物にしてくれよ」
「えへへ……何をおごって貰おうかな」
空音は子供の頃みたいな笑顔で喜んでいた。学校に着くとどうやら先生や瑠花にも同じクッキー渡しているようだった。




