第30話 憂鬱な夜に
家に帰ると妹の夏希が冷やかしてきた。
「今日、お兄ちゃんが電車に乗って出掛けるの見たぞぉ。お洒落してたし、もしかしてデートとか?」
お前は能天気で良いよな。まあ普通の学生はみんなそんなもんか。
「そんなんじゃないよ」
「えぇーじゃあどこに行ってたのよぉ」
ニヤニヤしながら話しかけてくる夏希。
「別にお前には関係ないだろ?」
「なんか落ち込んでるみたいだけど、振られちゃったの?慰めてあげようか?私の巨乳で(笑)」
いい加減頭に来た俺がキレる。
「お前のは巨乳じゃなくて鳩胸なだけだろ。いい加減にしろよ。しつこいぞ」
「キャーお兄ちゃんが怒った……逃げろ逃げろーー」
ったくこの野次馬女が……。これで本当に手がかりが無くなって振り出しに戻っちゃったんだよな。はぁーー気が重い。
そんな事を考えていると夏希が俺を呼ぶ。
「お兄ちゃんお兄ちゃん電話だよぉーーふふふ……彼女さんから」
ん?彼女?誰だこんな時間に……。
「あっもしもし大地ですけど」
「あっ大ちゃん。ごめんね突然連絡して」
電話の主は空音であった。
「いやそれは全然構わないけどさ。体調はどうだ?少しは良くなったか?」
「お陰様で元気いっぱいだよ。先生から聞いたんだけど卵酒は大ちゃん作ってくれたんだってね。すっごく美味しかったよありがとう」
確かに声のトーンは上がっているように聞こえる。良かったな。
「へへへ。あんなんで良ければいつでも作ってやるよ」
「でも大ちゃんが料理出来るなんてちょっと意外だったな。人は見かけによらないのね」
なんか最後に凄ぇ失礼な事言われたような気がしたが……まあ良いや。
「何か俺に用か?」
「あーそうそう。大ちゃんって苦手な食べ物とかってなんかあったっけ?」
「んと、伊達巻とかかな。前に食べ過ぎて気持ち悪くなったことがあってさ」
「ふーん。そっか、他には嫌いなもの無いの?」
「あとは無いけど……突然なんで?」
「えっ?いや何でもないの。アハハ………。じゃあまた明日ねバイバイ」
なんか空音のヤツ変だったなっと思いながら電話を切ると横でニヤニヤしている夏希が声をかけてくる。
「うふふふ……。お熱いですなぁ旦那。空音お姉ちゃん可愛いし、優しいもんね羨ましいなぁ」
勝手に勘違いされてるし、コイツはすぐに言いふらすからな。
「いやっ……そっそんなんじゃねぇし。まだ付き合ってる訳じゃ」
「ふふふ……まだって事は気はあるって事だよね。青春してるなぁお兄ちゃん。まあ頑張ってよ、私も応援してあげるからさ」
「…………………夏希ぃー」
「キャーお兄ちゃんがまた怒ったぁ逃げろ逃げろーー」
ったく、このお節介女め。しかし空音もなんでこんな時間にわざわざあんな事を聞いてきたんだろうな。
まあ、考えるだけ無駄か。疲れていた事もあって今日は早めに就寝する事にした。