第29話 この時代の真優美
真優美の実家はウチからもそう遠くなかったはずだ。翌日になり、俺は早起きして電車で真優美の実家をめざす事に……。
最寄り駅で降り真優美の家を探す。若干風景は変わっているものの目印となる建物があった為、迷わずに来る事が出来た。
表札をみると旧姓である【井原】の文字が刻まれている。ここだ間違いない。
しかし、なんて言って入れば良いんだろう。変な事を言ったら間違いなく不審者扱いだろうし。
「うーん取り合えず真優美が出てくるのを待つか」
暫く待つが一向に出てくる気配が無く、家のチャイムを押すが鳴らない。
「すみませ~ん。誰かいませんか?」
反応がない。休みだしどこかに出掛けてるのだろうか。そんな時、たまたま通りかかったおじさんに声をかけられる。
「ボウズどうした。この家になんか用か?」
「いやこの辺りで落とし物しちゃってもしかしたら拾ってくれてるかもと思って伺いたかったんですけど」
とっさに言い訳する俺をよそにおじさんは予想だにしない事を言う。
「この家は空き家だよ」
「えっ?空き家」
世界がまた歪む。
「きっ君……だっ大丈夫か?」
「あっ大丈夫です、すみません。あのおじさんこの家に住んでた人って最近引っ越したんですか?」
「いや10年ぐらい前にご主人が亡くなってからは誰も住んでないはずだが」
真優美はずっとここに住んでたはずだよな。どうなってるんだ。
「あとこのへんに真優美って名前の女子高生はいませんか?ちょっと探してまして」
「女子高生の事はよくわからないけど、真優美なんて子は聞いた事が無いな。悪いな力になれなくて」
「あっいや、こちらこそすみません。色々聞いてしまって失礼します」
一旦その場を離れる大地。おじさんが嘘ついているようには見えなかったけど、納得出来ずもう一度、真優美の家の玄関まで行き今度は扉を開けてみる。
「失礼します。入ります」
家の中は蜘蛛の巣が張り巡らされてとても人の住んでいる気配などなかった。
落胆する大地。諦めて帰ろうとしたその時、ポケットのからロケットが落ちる。
コロコロと転がり、床の間に当たって止まると突如ロケットが耀きだし光に包まれる。
光の中では息子の優大が初めて真優美の実家に挨拶に来た時の様子が写し出されていた。
【回想】
「初めまちて優大君。おじいちゃんでちゅよ」
お義父さんが優大を抱いている。ケラケラと笑う優大。
「あっお父さんあんまり乱暴に扱っちゃダメよ」
お義母さんがお義父さんを止めようとする。
「まあ良いんじゃないの?優大もなんか楽しそうだしさ」
真優美が笑ってお義母さんを止める。
「うぎゃーうぎゃーうぎゃー」
突如泣き出す優大。慌てて真優美とお義母さんが近寄る。
「ああ……またやっちゃったか。あんたオムツ替えてあげて」
おっ俺か?優大のオムツを手慣れた手つきで替える。
「よし、お尻綺麗になったな。新しいオムツ履いちゃおう………うわぁーー」
優大にオシッコをかけられる俺。
「あん。もう……優大ダメよ。お母さんタオル持ってきて」
「ふふふ……はいはい」
仲睦まじい光景。そうだこんな事もあったんだよな。そんな事を思いながら意識が遠退いて行く。
【回想終了】
気がつくと薄暗い床の間の前。ロケットを握りしめたまま寝てしまっていたようだ。
「俺、帰らなきゃな。元の世界へ」
そう強く思いながら帰宅する。