第26話 体調不良
号令の後、魔王が俺に話しかけてくる。
「目黒、選曲について話があるから昼休み私のところまで来てくれ」
休み時間に入ると仲の良い友達が数名が俺の下へよってくる。
「大地すげぇ~な。あんなに説明とか上手かったっけ」
「抜かりないと言うか全くスキがないんだもんな。あの魔王もタジタジだったし、なんかいつもの大地じゃないみたい」
「みんなオーバーなんだよ。俺はただみんなで決めた事を発表したに過ぎないんだからさ」
仕事と比べれば朝飯前だよなこんなの。まあ前日空音とちゃんと打ち合わせ出来たお蔭でもあるが……ふと空音に目をやると、机にうつ伏せで苦しそうな姿が………。
「大丈夫か空音?」
「ごめん大ちゃん。ちょっと今日はヤバいかも」
あの我慢強い空音が弱音を吐くって事は相当ツライって証拠だ。
「とにかく保健室に行こう。このままここにいるのは良くない」
次の瞬間、サッと空音を抱え込む影が……瑠花だ。
「空音ちゃんは私が責任を持ってお連れしますので先生への報告をお願いしても良いですか目黒さん」
「それは構わないけど一人で大丈夫か?」
「大丈夫です。ではお願いします」
空音を背負い猛スピードで走りさって行く瑠花。見た目に反して意外と運動神経も良さそうだ。
瑠花が教室へ戻って来たのはそれから10分ほどしてからであった。話から空音は帰宅するようであった。
昼休み。魔王に呼ばれていた事を思いだし、音楽室と職員室を覗くが姿が見えず、近くにいた先生に話を聞くとどうやら空音の付き添いで一緒に帰ったそうな。
仕方無く教室へ戻ろうとしたタイミングで先生に呼び止められる。
「目黒君は富良野さんの家のご近所だったよね。ちょっとお願いがあるんだけど」
話を伺うと魔王は慌てて出ていったらしく電車の定期券をロッカーて落として行ったとの事。
「大林先生、今月は金欠だとか言ってたし、定期券ないと困ると思うんだ。宜しく頼むよ」
「はい。わかりました届けときます」
まあ空音の様子も気になるし、通り道だから良いか。
放課後になり、教室を出ようとすると真奈美と真帆が声をかけてくる。
「私たちが無理させちゃったせいで空音ちゃん具合悪くなっちゃったんだよね。ごめんね」
「いや打ち合わせもそんなに紺詰めてやってた訳じゃないし、それが原因じゃないよきっと」
「もし、良ければこのあと少しだけ、学芸会の背景について話したいんだけど」
「あぁ勿論」
しばらく打ち合わせをして納得して帰る二人。俺も教室を出る。
そう言えば青森のばあちゃんちから送られてきた林檎がまだあったよな、空音に持って行ってやるか。
一度家に戻り林檎を数個袋に詰めてから空音の家へ向うと門の前に瑠花がいた。
なにやら、重そうな荷物を持っている。
「あれ?阿東さんどうしたの?」
「あっ目黒さん。荷物で両手が塞がってましてその……インターホンが押せないんです」
「それでずっとこうしてたのか?荷物おけば良かったのにじゃあインターホン押すね」
ピンポーン……ピンポーン………あれ?誰も出てこない。病院に行ってるのか?
扉を開くと鍵はしまっておらず、取り合えず二人で入る事にする。
「お邪魔します」
玄関に入ると凄い悪臭、キッチンから煙が出ているのに気づく。
「まずい。俺が見てくるから阿東さんここにいて」
空音、空音、空音。必死っ思いで煙る部屋を歩きようやく窓にたどり着く。窓を開けると部屋の煙が引いていく。キッチンには魔王がいた。
「うーん。分量を間違えたかな」
「先生、何してんですか。部屋が煙だらけじゃないですか」
「おぉ目黒じゃないか。いや~卵酒作ろうと思ったら失敗しちゃってな。目黒こそどうしてここに?」
「そんな事より、まずは窓を全部開けましょう酷い状態ですよこれ」
部屋の全ての窓を開け放ち換気をする俺。落ち着いた段階で魔王に定期を渡す。
「あぁ先生にこれ忘れていったでしょ。はい」
「おぁ悪いな。結構、慌ててたからな」
「空音はどうなんですか?」
「安心しなよ。ただの風邪だってさ。空音は今、寝てるから起こすなよ」
「それより先生、卵酒も作れないのかよ。鍋貸して下さい」
まずはお酒だけ温めてその間に卵と砂糖をかき混ぜる。
卵をコップに移し、沸騰させたお酒を少しずつ混ぜていく……よし完成。
「ほら簡単に出来たでしょ」
「目黒は意外と器用だな。どこで教わったんだ?」
「えっと真優美が……じゃなかった……母さんが風邪引いた時にばあちゃんにちょっと教えて貰ってね。ハハハ……」
本当は真優美が風邪引いた時に試行錯誤して作ったんだが、地獄だったな。こんなんじゃねぇって何度もつっかえされて
「あのぉ~私もそろそろ入って宜しいでしょうか?」
「あーごめんごめん。ずっと待たせちゃってたよね」
「おっ瑠花も来てたのか。瑠花は何しに?」
「空音ちゃんの荷物届けにきました。あと今日、お母さんが研修で帰らないと伺っていたので少し料理を作っていこうかと……キッチンお借りしますね」
瑠花が両手に持っていたのは食材だったのか。いったい何を作るんだろ?
「なぁ~目黒。鍋を焦がしてしまったんだがどうしたら良いと思う?やっぱ金属たわしとかで削るしかないのか?」
「これはアルミの鍋ですね。確か酢水に浸けとくと良く落ちるはずです。ちなみにアルミ鍋には金属たわし使えないですよ」
「そうなのか。目黒は意外と詳しいな」
感心している魔王。まあ、真優美の奴にかなり鍛えられたからな。
「先生は家では料理しないんですか?」
「うむ。皆無だな。だいたいはスーパーの半額商品買い漁ってるよ。目黒は料理はするのか?」
「僕はたまに作りますよ簡単な物しか作らないですけどね。先生も料理ぐらい出来ないと一生結婚出来ないッスよ……男は胃袋掴めってよく言われてますし」
「何だと?だが料理は性に合わん無理だ」
「じゃあ結婚は難しいッスね」
「うるさい。お前に私の気持ちがわかるかよ」
怒り気味の魔王が大声を出すと隣の部屋の襖が開いた。