第21話 打合せ
席に着くと同時に魔王が教室へと入ってくる。
「起立・礼・着席」
「よし、みんな今日は学芸会の演目について話し合ってもらう。まずは班毎に分かれろ」
ガサガサとみんなで机を移動する。
「私のやり方はわかってるとは思うが、今日一日各班で話し合って貰い、代表者には明日の道徳の時間に発表してもらうぞ」
「採用された班には授業点を加点してやる。サボった班は減点もありえるから覚悟しとけよ」
昔はこの発表が苦手で人によっては魔王の公開処刑だと悪く言ってたけど……社会人になって思う。
こう言った話し合いや発表する為の力はきっと教科書の勉強なんかよりずっと役にたっている。今となっては感謝するばかりだな。
「よし、ウチの班も話し合うか」
ウチの班はリーダーの空音を筆頭に目立ちたがり屋の【鈴木 春馬】ミスター筋肉バカの【高橋 宏樹】、目立たない系女子の【藤田 真奈美】と【加藤 真帆】
リーダー空音を中心に話し合いが始まる。
「じゃあまず春馬君や宏樹君は何かやりたい事あるかな?」
まずは目立ちたがり屋の春馬が話す。
「俺はとにかく派手なのが良いな。バーっとワーっと」
具体性に欠けるか続いて筋肉バカ宏樹が話す。
「俺は体を生かしたものが良いな。ただしゃべるのが苦手だから劇とかやるならセリフは短くして欲しい」
それじゃあ劇の意味無くない?やる気あんのかコイツら。空音が女子にも振る。
「真奈美と真帆はなんか無い?」
「私達はその……裏方で良いです」
「あんまり目立ちたくないので」
この二人に至ってはやる気すら感じられない。空音、良くまとめてたよな本当に
「大ちゃんは何かあるかな?」
「俺は現代版の昔話なんかが面白そうで良いかなとか思ってる」
一瞬、驚いた表情になる空音。
「あっそれ私と一緒だ。大ちゃんもしかして内容とかも考えてたりする?」
「えっと現代版の竹取物語が良いかなって思ってた。竹の中ではなく竹の小屋に監禁されていたカグヤを翁が助けて………なんてどうだ?」
「うん。凄く良いと思う。反対意見が無ければウチの班は現代版竹取物語で話を進めていこうか」
これは過去にこの話し合いで決めた演目だ。出来映えは良かったが発表の日に空音が体調を崩し休んだから上手く説明が出来ず採用されなかったんだよな。
話し合いの中で次々と物語が決まっていく。
「じゃあ春馬君は皇子軍団の頭で派手な攻撃をお願い。宏樹君は翁軍のゲートキーパーとして体を張ったプレーでそれを死守してね」
「宏樹~覚悟ぜよ」
「俺も頑張って春馬の攻撃を防ぐぜ」
キンコーンカーンコーン。
俄然やる気が出てきた二人だがここでタイムアップ。
「今日の授業は終わりだ。話し合いの終わった班は帰って良いぞ。明日発表だから各班のリーダーはまとめとくように」
魔王が教室を出ると真奈美と真帆が空音に話しかける。
「あたし達は塾があるんだけど……先に帰っても良いかな?」
続いて宏樹や春馬も続く。
「俺も筋トレが……」
「ゲームが俺を呼んでいるから~」
空音が笑顔で言う。
「大丈夫。ある程度、纏まってるし、あとは私がやっとくからさ」
みんなが帰ろうとしたタイミングで俺がみんなを呼び止める。
「ちょっと待てよ。帰るのは別に構わないけど、明日の発表で空音がミスったりしても誰も責めんな。それだけは心得とけよ」
「誰も空音ちゃんを責めたりしないって目黒は心配性だな」
「任せてるんだもん私達も責めたりはしないよ。約束する」
「それなら良いや解散」
過去では空音が休んだ事により発表が大失敗。減点喰らって空音が責められて落ち込んでたからな。
空音を残してみんなが帰っていく。
「私の事を心配してくれてありがとう。でも後はやっとくから大ちゃんも帰って大丈夫だよ」
そう過去では俺も空音に任せて帰ってしまった一人。
責められてる空音を助けてあげられなかった事をずっと後悔してた。だから今度こそ……。
「なに水臭い事言ってんだよ、同じ班だろ。一人より二人のが相談出来るし効率も良いだろ」
「へへへ……大ちゃんありがとう。一人だと行き詰まっちゃいそうだから助かるよ」
空音がいつもの笑顔で言う。
「んでどうする空音。どこで揉む?」
顔を赤らめて驚きの表情でコチラを見る空音。
「もっもも……揉むって?いったい何を揉むつもりなのよ」
少し慌てた様子の空音に大地が答える。
「何をって話をだろ。今のままじゃ明日の発表グダグダになるぞ。ただここだとライバルも何人かいるからな」
「なーんだ、私はてっきり………えっと何でもない」
「ん?」
こんなに慌てふためく空音を見るのは久し振りだな。もう少しからかってみたいけど、時間もないし止めとくか。
「えっとじゃあ駅前の喫茶店にでも行ってみる?』
空音の提案で駅前の喫茶店ポールに向かうがまさかの定休日
「参ったな。他にどっか良いとこ無いかな机とかありそうなとこで」
しばらく考え込んだ後、空音が口を開く。
「じゃあさ。久し振りに私の家に来る?」
「えっ??」
意外な展開に固まる俺。
「昔は良く来てたじゃん。ウチならちゃぶ台もあるし、ジュースとお菓子ぐらいは出すよ。ダメかな?」
「いや、ダメじゃないけど空音は大丈夫なのか?俺が家に上がり込んでも。お母さんにも何か言われるんじゃないの?」
「今日、明日はお母さんも泊まりの研修でいないし、問題ないよ」
それはそれで問題な気もするが……まあ話し合いに行くだけだしな。
「じゃあ久し振りにお邪魔させてもらうかな」
俺達は空音の家へと向かって歩き始める。