第19話 社会人の力
そうだ思い出した。ウチのクラスはホームルームで日直が悪魔の3分スピーチをやらされるんだった。何も発表考えて来てないし、うーんどうするか?
悩んでいるとチャイムが鳴り響く。そろそろ戻らなきゃだな。教室に戻るとあの頃の風景。近くの席のやつが俺に話かけてくる。
「おい大地。お前、日直だけど大丈夫なのか?前回のスピーチはただの献立発表で10秒で終わって魔王が激怒してたもんな」
「いや何も考えてないが……なんとかなるんじゃねぇの?」
「お前は何もわかってない、今日もみんなの笑いもんになりたいのか?」
ガラガラっと扉が開く音と共に魔王が降臨する。
「起立・礼・着席」
「みんなおはよう。じゃあ出席とるぞ」
出席を取り終えると魔王が再び話始める。
「今日は午後の道徳の時間を使って学芸会の話し合いをするからな。みんなそれまでに案を考えておくように。では日直スピーチ宜しく」
教卓に上がり顔を上げる。こっちを見ながらニヤニヤとするヤツが大半。空音を含め数人は心配そうな面持ちでこちらを見ている。
よし、見てろよ社会人の力を見せてやる。
「皆さん。おはようございます。目黒大地です。今日、僕は珍しく早起きをしました。たぶん朝練以外では人生初の出来事です。そこで今日は僕の早起きを記念して朝の起床時間をお題にスピーチしたいと思います」
見渡すとアクビをしてるヤツラが見えた。確かに聞いてるだけじゃつまんないよな。よし
「ただ話を聞いてるだけだと眠くなっちゃうと思うのでみんなにも少しゲームに参加してもらおうと思うのですが真央先生宜しいでしょうか?」
「構わん。やってみろ」
「ありがとうございます。みんなそれぞれ起床時間は様々だと思うのですがこのクラスの統計を取ってみたいと思います」
「まずは起床8時台の人。手を挙げて下さい」
遅刻の常習者の手が上がる。
「見ての通り、遅刻の常習者が顔を並べてますね。ちなみに僕も普段はこの時間帯です。起床時間と遅刻は密接に繋がっているようですね」
当たり前の事を真顔で言ったのがよほど面白かったのかみんな笑い始める。
「あっそこ笑うなよ。こっちは真剣なんだぞ。次、7時台手を挙げて下さい」
大半の生徒が手をあげる。
「なるほどなるほど、大半この時間帯か次でラストかな?6時台お手上げ」
空音を含め3人と魔王の手が上がる。
「そんな早起きしてなにしてんだ?山崎から起床時間と理由を言ってくれ。はいっ」
「俺は6時40分起床だ。早起きの理由は犬の散歩だな」
「耳寄り情報です。遅刻常習者は犬を飼えば早起き出来るみたいですよ」
クラスに笑いが溢れる。
「次、藤咲さんは?」
「私は6時30分理由は自主トレだよ。ランニングとか筋トレやってる」
「なるほど、その鍛え抜かれた肉体は自主トレの賜物でしたか。そこの太り気味のアナタ、朝トレお薦めですよ」
さらに笑いが溢れる。
「最後は空音お願いします」
「私は6時頃起きてるよ。理由はお母さんと一緒に食事したいから。ウチのお母さん仕事早いしね」
「ちなみに食器洗いは空音がやっているそうです。家庭的な女性は素敵だよね。というわけでうちのクラスのナンバーワン早起きは……」
「待てぇ目黒。なぜ私を指さないんだ」
ドスの効いた声で呼び止める魔王。
「いや先生は対象外かなって思ってたんですが……いります?」
「無論だ。私も空音と同じ6時に起きている。理由は通勤に時間がかかるからだ。以上」
「それでは先生と空音のダブル優勝って事で~」
「大ちゃんちょっと待って。私達よりもっと早く起きてる人まだいるよ」
まだ上がいるのか……。
「本当か?じゃあ5時台の人」
端の方でひっそり手が上がる。瑠花だ。
「阿東さんは何時に起きてるんですか?」
「わっ私は……その………5時30分です」
「断トツで早いですね。そんな時間に起きて何をやってるんですか?」
困った顔の瑠花が口を開く。
「ちょ朝食とお弁当の準備を……あとは家の事をやって………ごめんなさい」
「阿東さんは料理出来るんだね。得意料理とかは何ですか?」
キンコーンカーンコーン……ホームルーム終了のチャイムが鳴る。
「目黒、時間オーバーだ。瑠花の得意料理はカレーだそうだぞ。じゃあホームルームを終わりにするぞ」
「起立・礼」
ホームルームが終わると教室内で瑠花の陰口が叩かれる。
「阿東のやつ早起きして料理してるなんてすげぇよな」
「お前、騙されてるって。あれって女子力アピールするために話を盛ってるんだろ?モテないからって姑息だよな」
「マジかよ。頭良いだけに計算高いな」
「得意料理だってカレーだろ。あんなの食材を適当に刻んでカレールー入れるだけなんだから誰でも作れんだろ」
「朝食は納豆とか冷奴とかかもよ。お弁当だって日の丸弁当だったりして」
「アハハハハ…うけるんだけど、次回の調理実習あいつ一人にやらせてみよっか」
……みんな言いたい放題言ってやがる。急いで瑠花の下へ謝りに向かう。
「ごめん阿東さん俺が余計な事言ったばかりに……」
なぜか同じタイミングで空音も謝罪にくる、
「ごめん瑠花。私が余計な事いったから……」
「二人共に気にしないで下さい。いつもの事で慣れてますから。それに私がオドオドしてるからいけないんです」
瑠花は笑って許してくれたけど、なんか悪い事しちゃったな。罪悪感を感じた大地であった。