第12話 熱性痙攣
目が覚めると朝になっていた。今日は空音をちゃんと送ってやらなければ。そう意気込み朝食の準備を始める。
今日は優大の好きなおかずにしてやろうと腕によりをかけた。テーブルに並べ終えたところで優大が起きてくるが何か様子がおかしい。
「どうした優大。まだ眠いのか?今日は優大の好きなベーコンエッグだぞ」
優大はフラフラと俺の目の前に来ると力無く座り込んでしまう。倒れそうになったので慌てて体を支えると高熱なのがわかった。
「優大しっかりしろ大丈夫か。優大、優大」
優大は痙攣を起こし目は虚ろ、口からは泡を吹き呼吸もちゃんと出来ていないように思えた。とにかく救急車だ119番。
「あっもしもし救急です。うちの息子が優大が大変なんです。すぐに助けに来て下さい」
「どうしましたか?」
「急に息子が倒れて痙攣起こして呼吸もしていないんです。体も物凄い熱さで……」
「お子さんはおいくつですか?」
「3歳です」
「おそらく熱性痙攣だと思います。痙攣は数分で治まると思いますが布団に横向きに寝かせて安静にさせて下さい。すぐに向います。保険証や替えの着替え等を用意しておいて下さい」
しばらくすると痙攣は治まり、呼吸が戻ると寒いのかガタガタ震えだす優大。急いで布団にくるんで暖める。
「優大。大丈夫だぞパパいるからな。もうじき救急車来るから先生ポンポンで見て貰おうな」
救急車が来ると優大は酸素マスクつけ運ばれいく。
「あの息子は大丈夫なんでしょうか?」
「このくらいの子は熱を出すと痙攣する事は良くあるのであまり心配しないで下さい」
「そうなんですか……すみません。初めてだったもので……」
「良いんですよ。それでは病院に搬送しますね」
病院診察室へ運ばれる優大。ぐったりと元気がない。診察の結果、軽い肺炎との事で暫くは入院して点滴による治療が必要になるとの事だった。真優美に連絡するが繋がらず、仕方無くメールを入れる。
しばらくすると実家の母から連絡が入った。優大の状況を説明し、空音の葬儀には出れない旨を伝えた。
優大が心配だから見舞いにくるとか言ってたけど俺の代わりに空音の葬儀に出て貰うように伝えた。夜になると真優美から連絡が来る。
「もしもし。優大は大丈夫なの?ねぇ?ねぇ?」
「大丈夫だから落ち着いてよ。今は静かに寝てるよ。軽い肺炎らしくて暫くは入院して点滴治療が必要みたい」
「とにかくすぐに帰る」
「いや、流石に今からじゃ無理じゃ……それに真希さん達はどうすんだよ」
「真希達には悪いけど緊急事態だもん、これから空港に行ってキャンセル待ちするよ」
「悪いな。気をつけて帰って来てな」
「優大の事、お願いね。あと、なんかあったらすぐに報告を……。メールでも良いから……じゃあね」
ぐっすりと寝ている優大。薬が効いているのかさっきよりも随分顔色が良くなっている。
「優大。元気になったらまた遊ぼうな」
優大のベットに伏せながら眠りにつく。寝ていると誰かが頭を優しく撫でる。空音?
「ごめんな空音。最後なのにちゃんと送り出せなくて……」
頭の撫で方が徐々に激しくなって行く。
「ごめん。許してくれ空音」
撫で撫でからバシバシに変わる。
「痛い、痛いってば。やめ……やめてくれ」
目が覚めるとそこには優大の足があった……相変わらず寝相が悪いな。眠い目を擦り窓を覗くと既に明るくなっていた。
「空音……ごめんな」
朝になると優大が目を覚まし周りをキョロキョロする。
「クマァ?ママは?」
「ママは今、こっちに向かって移動してるからもう少し待っててな」
「クマァ?ポンポン空いた」
「そうだよな昨日から何も食べてないもんな。看護婦さんに聞いてみような」
看護婦さんに聞いてみるとやはりまだ食べ物は難しいとの事。暫くは点滴で栄養補給するらしい。
「優大ごめんな。ご飯はまだダメだっ……優大?』
慌てて確認すると優大は寝てしまっていた。まだ熱が高いし、疲れているように見える。
お昼過ぎた頃、廊下駆ける足音がドンドン近づいてくる。真優美だった。
「優大ごめんね。こんな時にママがいてあげられなくて……寂しかったよね。グスッ……グスッ」
泣きながら優大を抱きしめる真優美。
「せっかくの旅行だったのにごめんな。俺が優大をしっかりみてれば……」
「アンタは別に悪くないよ。むしろ悪いのは私。優大が風邪気味なの知ってたのに旅行に行ったりして、母親失格だよね」
「真優美だってあんな遠いとこから急いで帰って来たんだし、全然母親失格じゃないよ」
「あっそうだアンタ葬儀は?もしかしたらまだ間に合うんじゃない?大切なお友達なんでしょ?」
「今からじゃもう間に合わないよ」
「本当にダメなの?なんかアンタにも悪い事しちゃったよね」
「いや緊急事態だったし、仕方ないよ」
「あと、メールにも書いたけど、優大しばらく点滴しなきゃならないみたいで入院が必要らしいんだけど、安全面から原則女性しか付き添いで泊まれないらしいんだ|帰って来た所わるいけど真優美泊まれるか?」
「私しか泊まれないんでしょ?任せといてよ。その代わり荷物とかは頻繁に取りに来て洗濯とかはしてね」
「わかった。悪いな……」
「これでも母親だからさ。優大優先だよ。任せて」
こう言う時の真優美は本当に頼りになる。面会時間終了になり一人家へと向かう。普段は狭く感じる家も今日は広く寂しく感じた。