第11話 擦れ違う想い
思い出す空音との最後の記憶。
卒業してからは別々の高校と言う事もあり、空音と会う頻度は減ったものの、メールや電話のやりとりはあったし、半月に一度は特売品の買い出し手伝わされたりとそれなりにやり取りはあった。
【回想】
「今日も買物手伝ってくれてありがとう。大ちゃん力持ちだから助かるよ」
「俺もまだバイトとか決まってないし、暇だからなんでも言えよな」
「ふふふ……ありがとう。手伝ってくれたお礼にアイスでもご馳走するよ」
空音の家に荷物を置いた後、近くの公園でアイスを食べながら、お互いの高校の事や友達の事などを話す。
「そろそろ暗くなって来ちゃったし、帰ろうか」
そう言うと一瞬寂しそうな顔をした空音。歩き出す空音を俺が呼び止める……そうだ今日はこれを渡さなきゃ。
「あのさぁ空音。もし今週末、空いてたら一緒にエンゼルランド行かないか?ほらチケットあるからさ」
目を丸くして驚く空音。
「えっ。これどうしたの?もしかして私の為に……」
「これはだな……その……そう、親戚の叔父さんがくれたんだ」
本当はコツコツお小遣いを貯めて買ったチケット。空音と一緒に楽しむ為に……そして今度こそ自分の思いを伝える為に……。
「空音行きたいって言ってたからもっと喜ぶかなって思ってたのにやっぱり俺とじゃ嫌か」
少し照れながら空音をデートに誘う俺。空音の頬も心なしか少し赤く感じた。
「えっ?行きたい行きたい行きた~いです。でも私なんかと一緒で良いの?」
「どうせ行くなら一緒に楽しめるやつと行った方が良いしさ。じゃあチケット渡しとくから今週の日曜日8時に駅の改札前で待ち合わせな」
「うん、誘ってくれてありがとう。ふふふ……私、楽しみにしてるよ。何から乗ろうかな?なんてね……えへへ」
とびっきりの笑顔で喜ぶ空音。こんなに嬉しそうな空音を見るのは久し振りだ。帰ってからデートプランを考えていると笑いが止まらなかった。
そして約束の日。心を踊らせて待つ俺だったが約束の時間になっても空音は現れなかった。
最初は寝坊かと思っていたが電話をしてもメールしても返事がない。仕方なく空音の家に向かうが留守であった。空音は理由無く約束を破る事をするような奴じゃないし、何かあったんだろうか?
お昼を過ぎたあたりで空音にまた別の日にしようとメールを入れて家へと帰宅する俺。
数日後、空音から謝罪のメールが届いた。
【エンゼルランドの日、大ちゃん待っててくれたのに連絡も出来ずにごめんなさい。急に具合が悪くなってしまって病院で治療を受けてました。せっかく誘ってくれたのに本当にごめんなさい】
【P.S. あと2日ぐらいは検査で入院なんだけど、今日から一般病棟に移動したのでメールなら出来ます】
空音は入院してたのか、心配だな。
【俺の事は全然気にしなくて良いから。空音が良くなったらエンゼルランド一緒に行こう。お大事にな】
俺がメールで返信を送ると空音から返事が返って来た。
【ありがとう。私も楽しみにしてる】
それから数日間はそんな感じで普段通りやり取りしていたのだが、突然空音からの返事が途切れた。不安になり、メールを続けていると一通の封筒が届く。
【返事出来なくてごめん。お母さんの仕事の都合で急遽引っ越す事になったの。だからエンゼルランドには他の人と一緒に行って下さい。今までありがとう】
封筒の中にはチケットが……。
納得の行かない俺は空音の家へ急いで向かうが既にもぬけの殻であった。
突然の出来事に困惑する俺、何度も何度も電話するが一向に出ない空音。俺は何が何だかわからず、すっかり打ちのめされてしまった。
翌日、携帯電話の着信がなる……空音からだ。
「もしもし空音か?メールの返信もないから心配したんだぞ。それにあんな手紙送ってきてどういうつもりだよ。引っ越し先ってそんなに遠いのか?」
「連絡出来ずにごめん。引っ越し先は県内だし、高校も通える距離だよ」
「だったらなんでチケット返して来たんだよ。県内なら休み合わせれば行けるだろ?空音と一緒に行きたいんだよ。俺……空音の事がずっと前からす……」
俺の告白を遮るように空音が話に割り込む。
「大ちゃん。私ね彼氏が出来たんだ。同じクラスの子なんだけど、背が高くて格好よくて優しい人。私、一目惚れでさ。だからその……エンゼルランドには一緒に行けない。ごめん。」
空音言った事に動揺を隠せないでいる俺。
「あっ…ああ……そっか……そうだったのか。そこまで気が回らなかったよ。たくさん電話やメールしちゃったのも迷惑だったよな……ごめん」
暫く間が合ってから空音が話し始める。
「迷惑だなんてそんな事無いよ。……グスッ……グスッ………大ちゃん色々気を使ってくれたのに……私のせいで……グスッ……ごっ……ごめんなさい」
空音?泣いてるのか??
この時の俺は空音の涙の訳を知る由もなかった。
「ははは……俺の事なら気にすんなよ。全然大丈夫だからさ。空音が幸せなら俺はそれで良いんだ。こっちこそありがとうな」
「グスっ……大ちゃん……私……私…本当は……………ううん……何でもない……ごめんね」
「また、何かあったら連絡くれよな。相談とかだったらいつでも聞くからさ。じゃな」
「……ありがとう大ちゃん」
そっと電話を切る俺。
「うっ……ううぅぅ……ううぅぅ……グスッ……グスッ……」
電話を切った俺は生まれて初めて泣き崩れた。今までに感じたことの無い空虚と悲しみ。こうして俺の初恋は本当の意味での幕を閉じた。
【回想終了】
その後、空音とのやり取りは無くなってしまったが、一年くらい前に結婚したと言う話は母親から聞いた。