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北摂十五夜  作者: ふしみ士郎
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第二夜

闇夜からはかすかに光が垣間見えるが、ほとんど真っ暗闇である。

第二夜


 高速道路を走るトラックを横目に、黒い車体が加速する。闇夜からはかすかに光が垣間見えるが、ほとんど真っ暗闇である。そこは新御堂筋と中央環状線がクロスする場所。かつてはニュータウン建設から団地やマンションが乱立していた。その真ん中に千里中央という人工の街が作られ、人々は生活した。梅田までは三十分で電車を走らせ、やがてはモノレールで伊丹空港から直通になる。1970年、千里山が崩されて吹田と豊中から茨木にまたがるその一帯は、開発地と化していた。大阪万国博覧会が開かれ、月からの石が宇宙船から運ばれる。そして生命の進化、科学の発展をうたい、岡本タロウが太陽のトウを建立。その白くそそり立つ物体は、遠くの道を見渡していた。俺はなにをみているのだろうという疑問?または世界に対する情熱!そういうオーラを感じさせながら、道は真っ二つに万博をぶった切っている。そこを、何十年後に道を走りながら黒い車は加速する。マンションの窓からは新しい生命の光、生活の灯火、または生理のオンナの痛みまでが聞こえてくる。成長しては消滅する子供たち。彼らの行く果てもないため息が、夜の存在意義となる。親の車を乗り回し、男は吹田のインターチェンジから少し走ったところで車を止める。タバコに火をつけると、辺りを見渡した。深夜の静けさが、万博と周辺のマンションを占拠する。なだれこむ夢想。そして沈まぬ要塞のような不安。憧れに似たネバーランド。夜の観覧車が向こう側で笑っている。輝きは暗闇へと変わり、昼間にはしゃいでいた子どもたちはベッドで眠っている。カップルはセックスに精を出し、親子ケンカも夢の中。黒い車のエンジンが回る。そこには、夏の匂いがあった。唯一、それだけが彼の味方で、タバコの煙がアスファルトへと溶けていく。そのとき、トラックがクラクションをファーン。と鳴らしながら通過した。彼は車に飛び乗ると、現実というアクセルを踏み込みトラックの跡を追う。あっという間に横に並ぶと、直線のカーチェイスが始まった。トラックは巨体を揺らしながらも、黒い車に幅寄せしてくる。彼はほとんど無意識にスピードを上げる。そしてトラックの前にやってきて、フラフラと右左に車を振った。挑発するような動きは、トラックのゴーというエンジン回転にかき消される。フルスピードで真後ろまで迫ってきたトラックが威嚇するように、黒い車のテールに接触。その瞬間、すべては水泡を化す。そこは山深くそそり立つ木々、フクロウの泣き声、タヌキの足音。闇はその中をさ迷っている。ため息は自分にしか聞こえない。月明かりも今夜はあてになりそうにもない。彼はタバコを吸おうとして、ライターを失くしたことに気がついた。すべてを見下ろすことができる頂上を目指したが、どこがテッペンなのかも分からない。何十年後かに事故を起こすあのジェットコースターのようにグルグルと回転しているようで、静かに後退しているようでもある。天を見上げたが、いまだ月明かりは見えない。逆にズズズと泥の中へと落ちていく。地面に這うと木の葉が体にベッドリとくっつく。腰をうごかしているうちに、彼のアソコがそそり立つ。自分が死に直面しているとき、生命の最後のあがき。腰を動かし大地と交わり恍惚の光を発する。その光は太陽のしずくとなり、芝生の広場へと広がる。万事無常、回転しないものはない。トウが見守る中その変化は、トラックの煙、黒い車体の破壊されたボディ、救急車のサイレン、赤い警備灯、横を通過する車の群となり。だが彼は血を流しながらも、その最後の瞬間まで目を開けていた。そしてそのクルクル回転する不思議なランプをずっと眺めては、子どもの頃に走った団地の螺旋階段を思い浮かべていた。そこには弟と兄貴と、その友達がいた。彼らはクツを失くした天使みたいに、いつまでも笑っている。そして黒い髪を短く刈り込んでは、グチャグチャになった傷跡に砂を塗りこんでいた。まるでそれが正しいとでも言うように。


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