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隠しててごめんなさい。
いきなり話しても怖がられて手紙をくれなくなってしまうのではと思い、怖くなって私のことを話すのをためらってしまいました。
想像の通り、私は魔界の住人、魔族です。
このお手紙は魔界の海を漂っていたのを私が拾いました。
どんな人なんだろうって思って、 お手紙を出しました。それからお手紙を貰えてうれしくなると同時に
自分が魔族だと知られたら、もうお手紙を貰えないんじゃないかと考えてしまって、そしたらすごく怖くなってしまって、どうしても言い出せなくなってしまっていました。
騙そうだとか、そんな考えはありません。
だから、もう一度、お返事をください。
それ以降にも書いてあった跡はあるが、涙であろうか何か水滴を溢して、インクが滲んでしまって読めなくなってしまっている。
それだけ差出人の思いが痛いほどに分かった。
「……酷いこと言っちゃったな。」
じくりと胸が痛む。
「これは、まぁ、様子見でもいいんじゃないか……?」
横から見ていた聖女は少しばつの悪そうな顔をしている。
勝手に裏切られたと思って手紙の彼女には酷い言葉を投げつけ、その心をズタズタにしてしまったのだ。
「ちゃんと謝ろう。誠意を込めて、魔族だからって悪い奴ばっかりじゃないよね。」
「偏見の目で見ていたのは確かだな。」
「そうだね。ちゃんと謝って、許されるならもう一度、友達になりたいな。」
「いいんじゃないか。そんな悪い奴じゃなさそうだしな。」
そう言って部屋から出ようとする聖女。
その前に何かを思い出したかのように立ち止まり、勇者へ向き直ると
「そうだ、この街を出たらティターニアの国で依頼を受けるからな。恐らく魔王軍の一角と当たるかもしれないから覚悟しておけよ?」
「……分かった」
無意識のうちに、手紙を持つ手に力が入る。
「その嬢ちゃんが悪い奴じゃないのは分かったが、これから行くのは悪者退治だ。そこんとこははき違えんなよ?」
こちらの気持ちを確かめるように言ってくる聖女。
そんなことは分かりきっている。
「大丈夫。苦しんでいる人がいるんだ。間違えたりしないよ」
「……ならいい。んじゃ、また明日な」
今度こそ部屋から出ていく聖女。
「うん。ちゃんと謝って、僕のこともちゃんと知ってもらおう。」
勇者はそう呟くと紙とペンを取る。
彼女の誠意に応えるために自分の語れるだけの謝罪の言葉、自分自身を知ってもらうための真実を。
何度も間違え、紙を交換し、やっと書き終わったときには少し東の方が明るくなり始めていた。