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私も大陸の反対側からお手紙が来たなんて思いませんでした。
そんな離れた人とお手紙をやり取りするなんてとってもドキドキしてます。
字は少しでもあなたが見やすいように頑張って書いてますので、綺麗と思ってくれたら嬉しいな。
私も緊張しているので、何か粗相をしてしまったら大目に見てください。もちろん、そんなことないように気を付けていますが!
旅をしているとのことですが、道中に猛獣などに会ったりしないのでしょうか?
なんだか危なそうで心配です。
それでも、いろんなところに行けるというのはとても魅力的ですね!私は生まれたこの地から出たことがないのでちょっぴり憧れちゃいます。
王都と言うのはそんなに人がいっぱいなのですね。なんだか私では迷子になっちゃいそう!
でも、あなたの楽しそうな様子が目に浮かぶようです。
それに綺麗なプレゼントをありがとう!早速身に着けました!
お礼と言ってはなんですが、私のお気に入りのちょっとした首飾りを同封します。
玉の中にお星さまが浮かんでいるようで綺麗ですよね?
手紙には金の首飾りが同封されていた。首飾りには大きめで漆黒の球がついており、球の中にはきらきらとした輝きが見て取れる、光にかざしても向こう側が見えることはなく、中に閉じ込められた星がより美しく輝くだけだった。
「これ、絶対高いよなぁ……」
もともと平民の勇者はこの手の物の価値に疎い。それでも分かる。絶対に高い。
「そろそろ次の国に移動するか……ってお前、それどうしたんだよ!」
入ってきた聖女が勇者の持つ首飾りに驚き駆け寄ってくる。
「プレゼントされたんだけど、これ絶対に高いものだよね?」
聖女に見せながら苦笑する勇者、
「いや、高いなんてもんじゃないぞ。それの名前は星の雫って言って魔界付近の土地でしか採掘できない宝石だ。その10分の1くらいの大きさで金貨を山のように積まないと買えない代物だぞ!?手紙の嬢ちゃんはこんな大きいものどっから手に入れたんだ……?」
説明を聞き、冷や汗が浮かんでくる。
「ど、どうしよう……安物の飾り紐がとんでもないものになったよ……」
「とりあえず、礼はしないとな。それと……その嬢ちゃん怪しくなってきたな。」
慌てる勇者と難しい顔をして答える聖女。
「え?なんで?」
「言っただろ?魔界付近の土地で採れる宝石だって。じゃあ、魔界では?もしかして普通に採れる宝石では?もしそうだとしたらこの嬢ちゃんは魔界の住人、つまり敵だ。」
「…………」
出された結論に言葉を失う勇者。
そんな様子に聖女はため息を吐きながら、さらに言葉を重ねる
「どういう目的で近づいてきたのかわからんが、てめえの好きにすればいい。もし探りを入れてくるような奴ならそん時はてめえでけり付けな」
そう突き放すように言うと出ていく。
「僕は……」
いろんな思いと共にペンを取る勇者。
たった2通しかやり取りをしていないのになんでこんなにショックを受けているのか。
自分でも不思議になりながら今の自分の思いを手紙にぶつけていく。
こうして、手紙は彼女のもとへ届けられることになる。