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手紙が遅くなってごめんね。
すこし、遠くまで魔獣の討伐に行っていました。
最近、ティターニアの人たちを困らせていた魔獣の討伐に行っていました。
そのせいですこし手紙を書けなくなっていました。
今の街は平和そのもので、これから人の行き来も増えてくると思います。
今僕のいる町は、ティターニアの東部で一番大きな町のオベロンと言うところです。
この国全体がそうですが、常に春の様な温かさでとても過ごしやすいところです。
どうしてなのかはわかりませんが、この国の中では常に花が咲き、観光名所としても有名です。
この街の人たちはとても穏やかな人が多いような気がします。この気候のせいですかね?
また、ここの食べ物で有名なのは花の蜜を使ったお菓子が有名だと思います。
僕も食べてみましたが、とても甘いのにしつこくなくて美味しかったです。
君と一緒に食べられたらいいなあ。
それと、僕のあげた花ですが、君の手紙を見て調べてみたらこちらでも大切な人にあげるためのお花でした。
とても恥ずかしいですが、あげたことを後悔していません。
僕にとって大切な人だと思うから……。
ただ、求婚しているわけではないです!そういうつもりじゃなかったんです!ただ、僕にとって大切な人ってだけで、傷つけてしまった君にそんなことできると思うほど恥知らずではないよ!
……これ以上、何か言うと変なこと言いそうなので、この辺にしておきます。
とにかく気に入ってくれたならとても嬉しいです。
追伸、こちらで有名な花の蜜を使った飴を同封します。良かったら食べてください。
手紙には紙袋がついており、中には様々な色の飴玉が入っていた。
「これが妖精郷のお菓子か……」
魔王が飴玉を取ろうとする前に魔女に制される。
「なんだ?」
「妖精郷最奥、エルフ族の長が討伐されました。見届けたものによると、最後は勇者との一騎打ちで討ち取られたとのことです」
その報告に魔王は手を引っ込める。
「そうか、遺った者は?」
「エルフ族が300、妖精族が50程度です。」
「分かった。獣人族から、領地を4分の1割譲して貰おう。代わりに私の直轄地を半分渡そう。」
何の感情も持たない顔で淡々と、指示を出す魔王。
「魔王様、族長から伝言が」
「なんだ?」
「此度の勇者はなかなかいい漢だった。とのことです」
魔女のその言葉に薄い笑みを浮かべる。
「最期まで下らんことを言いおってから……。今日は散っていった者達の為に宴にするとしようか。」
「……魔王様、その」
「分かっている。この手紙の主が勇者なんだろう?」
そう言って手紙を持ち上げ苦笑する魔王。
「魔王様……」
「大丈夫。やることは変わりなしだ。私の最期は勇者に討たれることだ」
「しかし、魔王様は」
「そうだなぁ、割と最近まで否定してたけど私の心の中にあるこれは多分好意、かな……もしかしたら自分の死が近づいてきたせいで勘違いしているだけかもしれないが、でも、うん。多分好きだよ。たった数通しか手紙をやり取りしただけの顔も知らない相手だけど……うん、好き」
優しく笑う魔王を見ていられなくなった魔女は俯きながら、
「魔王はそれでいいの……?」
「うん。まぁ、勇者に殺されなくてはならない幹部連中にしてみれば面白くないと思うけど……好きな人の手にかかって死ねるなら……嬉しい、かな?」
「魔王、それではあなたがっ」
あまりにも可哀想、そう言いかけた魔女に、にっこり笑いかけ、
「だから、ごめんね。手紙だけは最期まで送らせて? 最期まで彼とお話ししたいから」
その表情に魔女は出掛かった言葉を飲み込み、
「仰せのままに、魔王様」
そう言って、部屋を出て行った。
部屋で一人になった魔王、ゆっくり椅子に腰かけ手紙を眺める。
「うーん、どうして好きになったんだろうなぁ……」
どうして、自分にそう問うても明確な答えは出てこなかった。
しいて言うなら、
「手紙を貰ったからかなぁ……え、私って惚れっぽいのかなぁ、それはやだなぁ……」
そう呟くと先程、手を出すのをやめた紙袋から飴玉を口の中に入れる。
じんわりと蜜の甘い味が口いっぱいに広がっていく。それでも、
「うん、少ししょっぱいね」
魔王はそう言って飴玉がなくなるまで口の中で転がし続けた。