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かわらぬ店員とかわった教授

作者: エッチな思考の鈴木
掲載日:2019/03/14





―――鈴りんが鳴る。


ただ、無為な時間を貪りたい私に死刑宣告を告げる、あの憎い鈴の音。

客なんてめったに来ないような私の聖域を侵すのは……いつものあの人。


「教授……いつものでいいですか?」


教授と呼ばれたソレは、いつものように黙って定位置に座り。

全く整える気のない無精ひげを人撫でし、顔をしかめる。


「いらっしゃいませの一つくらいあってもいいんじゃないか?」


相変わらず、偉そうな男だ。

いや……客としては至極まっとうな意見か。


「いらっしゃいませ、お客様。

 ご注文はいつもと変わり映えしないコーヒーとタマゴサンドでいいですよね?」


「私はその愛想のなさまで『いつもの』のうちに入れたつもりはないのだが?」


「それは失礼しました。」


こんなやりとりが私たちの変わらない、いつものやり取りだった。

だが……


「いや……今日はタマゴサンドじゃなくて寒天にしてくれ。」


「え、寒天ですか……?また変なものを頼みますね。」


私の質問に対して、教授は変に真剣な目で私を睨んでくる。


「君は寒天は何で出来ているか知っているかい?」


「いや……質問を質問で返さないでくださいよ……。」


「いいから。」


今日はえらく強引だな……。


「そうですね……いぐさでしたっけ?」


「……なんだ……知ってたのか。」


「……えぇまぁ。」


いい年したおっさんがへそを曲げた子供のように渋い顔をする。

よくわからない沈黙が続いた。


「教授……?」


「それじゃあ、刹那と言う言葉について何だがな……。」


「教授、よくわからない豆知識披露とかいいですから。

 と言うか、教授とトリビア披露とは相性が最悪だと思いますよ?

 今日はほんとにどうしたんですか?」


「わかった……それならば虚数はどうだ。」


「教授。」


「いいから……これで、最後にするから。」


「もう……。」


いつもとは違う、教授の押せ押せムードについ流されてしまう。

今日の教授はほんとにどうかしてる。

まぁ……数学は教授の得意分野だし、さっきよりはましだとは思うけどさ。


「それで?……虚数がなんなんですか?」


「虚数とはなんぞや。」


「教授……一応、教授の生徒なんですけど?舐めてます?」


「ほう……?じゃあ、答えられるはずだろ?」


教授のムカつくイキリ顔につい、乗ってしまう。


「教授……合ってたら追加注文で激辛ホットサンド、いいですね?」


「あぁ、それでいい。」


ほんと、今日の教授は何なのだ。

いつもなら泣いて嫌がる激辛ホットサンドを、こうも簡単に承諾するとは……。

……何か怖い。


「で、答えは?」


「2乗した値がゼロを超えない実数になる複素数……ですよね?」


確か、これで合っていたはず。


「正解だ……では、ご褒美だ。」


そう言って、教授は私に小さい何かを素早く手渡す。




―――そして教授は、私の時間と……心を止める。



「私と言う人間の価値は、若い男と比べたら何乗したって0を越えない虚数と一緒だ。

 だが……虚数だからこそ、君への愛はいつまでも絶対に色あせない。


 だから……私と一生を共にしてくれませんか?」



私は……手渡されたその小さな契約の箱を落としてしまい。

その不器用で、ひねくれた愛の告白に、返事を返すことが出来なかった。




だって……塩味のついた唇を両手で押さえる事しか、今の私には出来なかったのだから。




「三題噺」っていう、お遊び小説。

テーマは虚数、トリビア、寒天。


つい、周りの空気に流されたノリだけで書いた奴。

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