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かわらぬ店員とかわった教授

作者: エッチな思考の鈴木





―――鈴りんが鳴る。


ただ、無為な時間を貪りたい私に死刑宣告を告げる、あの憎い鈴の音。

客なんてめったに来ないような私の聖域を侵すのは……いつものあの人。


「教授……いつものでいいですか?」


教授と呼ばれたソレは、いつものように黙って定位置に座り。

全く整える気のない無精ひげを人撫でし、顔をしかめる。


「いらっしゃいませの一つくらいあってもいいんじゃないか?」


相変わらず、偉そうな男だ。

いや……客としては至極まっとうな意見か。


「いらっしゃいませ、お客様。

 ご注文はいつもと変わり映えしないコーヒーとタマゴサンドでいいですよね?」


「私はその愛想のなさまで『いつもの』のうちに入れたつもりはないのだが?」


「それは失礼しました。」


こんなやりとりが私たちの変わらない、いつものやり取りだった。

だが……


「いや……今日はタマゴサンドじゃなくて寒天にしてくれ。」


「え、寒天ですか……?また変なものを頼みますね。」


私の質問に対して、教授は変に真剣な目で私を睨んでくる。


「君は寒天は何で出来ているか知っているかい?」


「いや……質問を質問で返さないでくださいよ……。」


「いいから。」


今日はえらく強引だな……。


「そうですね……いぐさでしたっけ?」


「……なんだ……知ってたのか。」


「……えぇまぁ。」


いい年したおっさんがへそを曲げた子供のように渋い顔をする。

よくわからない沈黙が続いた。


「教授……?」


「それじゃあ、刹那と言う言葉について何だがな……。」


「教授、よくわからない豆知識披露とかいいですから。

 と言うか、教授とトリビア披露とは相性が最悪だと思いますよ?

 今日はほんとにどうしたんですか?」


「わかった……それならば虚数はどうだ。」


「教授。」


「いいから……これで、最後にするから。」


「もう……。」


いつもとは違う、教授の押せ押せムードについ流されてしまう。

今日の教授はほんとにどうかしてる。

まぁ……数学は教授の得意分野だし、さっきよりはましだとは思うけどさ。


「それで?……虚数がなんなんですか?」


「虚数とはなんぞや。」


「教授……一応、教授の生徒なんですけど?舐めてます?」


「ほう……?じゃあ、答えられるはずだろ?」


教授のムカつくイキリ顔につい、乗ってしまう。


「教授……合ってたら追加注文で激辛ホットサンド、いいですね?」


「あぁ、それでいい。」


ほんと、今日の教授は何なのだ。

いつもなら泣いて嫌がる激辛ホットサンドを、こうも簡単に承諾するとは……。

……何か怖い。


「で、答えは?」


「2乗した値がゼロを超えない実数になる複素数……ですよね?」


確か、これで合っていたはず。


「正解だ……では、ご褒美だ。」


そう言って、教授は私に小さい何かを素早く手渡す。




―――そして教授は、私の時間と……心を止める。



「私と言う人間の価値は、若い男と比べたら何乗したって0を越えない虚数と一緒だ。

 だが……虚数だからこそ、君への愛はいつまでも絶対に色あせない。


 だから……私と一生を共にしてくれませんか?」



私は……手渡されたその小さな契約の箱を落としてしまい。

その不器用で、ひねくれた愛の告白に、返事を返すことが出来なかった。




だって……塩味のついた唇を両手で押さえる事しか、今の私には出来なかったのだから。




「三題噺」っていう、お遊び小説。

テーマは虚数、トリビア、寒天。


つい、周りの空気に流されたノリだけで書いた奴。

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