番外編2 小林 宏
俺は小林 宏17歳、高校2年生だ。
現在俺は父親の実家に来ている。
父親は年に1回、こうして実家に顔を出す日を作って俺たち家族を連れてくる。
もっとも、来年は俺も受験生なので、次は少し間が空くだろうが。
「でも本当に、なんもねーよな…」
思わずため息が出る。
父の実家は大阪の端の方の港町だ。
そこはすぐそこに海がある。
だが、それだけだ。本当にそれだけなのだ。
なので、ほとんどの者は遊び場所は高校には町の外なのだと親父は言った。
「ヒロ、ちょっと夜明ちゃんと遊んであげなさい」
俺は親父にそんなことを言われ、頷き庭に向かう。
いとこの夜明のお守りを頼まれる。
あの子は庭によくいたっけな…。
庭に出ると、サッカーボールを蹴っている少女がいた。
その子に俺は声をかける。
「おっす、夜明」
「あっ、ヒロ兄こんちわ!」
元気に挨拶する少女は朱宮 夜明、小学2年生のサッカー少女だ。
彼女は元気一杯の小学生、元気が有り余っている。
「ヒロ兄、サッカー教えて!」
「またかよ…」
彼女は去年からサッカーにハマっている。
事あるごとに俺にサッカーを習いにくる。
俺は教えるくらいに上手くはない、高校では部活はやってないし、中学でも3年になってからしか試合に出たことはない。
「めんどくせえなあ…」
そう、俺はめんどくせえのだ。
ガキに教えることがめんどくさい。
「ちょっとだけでいいからー!」
「お前のちょっとはなげーんだよ」
この少女のちょっと、と言う言葉を信じて夜まで付き合わされた事がある。
それ以来、俺は夜明に苦手意識があるのだ。
「だいたいなんで俺なんだよ、地元のサッカー部員に教えて貰えばいいじゃねえかよ」
それを聞いた彼女は、キョトンとした目で俺に答える。
「だってヒロ兄、教えるの上手なんだもん!」
俺が教えるのが上手?
そんなことはないと思うが…。
まあ、教えてもらうことの方がこいつらは少ないのだろう。
去年なんて最初はお団子サッカーやってたしな。
苦笑しながら、俺は彼女に教えてやることにした。
「ちょっとだけだぞ」
「うん!」
子供はやはりウソつきだった。
---
晩ご飯を食べて、夜明は寝てしまった。
俺はやっぱり子どもより寝付くのが遅い。
大人になったと言うことなのだろうか。
「おう、ヒロ」
「親父、お疲れ」
風呂を上がった親父と居間で少し話す。
「今日は疲れたろ?」
「ガキはやっぱり元気だよなあ」
そんな事を言っていると、親父はハハハと笑う。
「お前は手のかからない子だったからな」
「めんどくさがりなだけだけどな」
そう、単にめんどくさいだけで動きたく無かっただけだ。
「でも、お前は先生とか向いてると思うぞ?」
「はあ?」
突然の親父の言葉に俺は変な声が出る。
何を言っているんだ、こいつは。
「どこが向いてるんだよ、どこが」
「いや、夜明ちゃんと話してる時とかけっこう楽しそうだぞ?」
むっ、そんなことはないと思うが…。
まあ長年見てきた親父が言うんだからそんなのかも知れないな、思う。
「教師なんてめんどくせえ仕事絶対やらねえよ」
「くく、そうかもしれないな」
そう、教師なんて面倒くさい仕事はしないだろう。
俺は適当に生きたいのだ。
そう考えながら、時間が過ぎていく。
---
「ヒロ兄、こっちだよー!」
次の日に、夜明にまた連れ出されながら苦笑し、もう一度あの言葉をつぶやく。
「ああ、めんどくせえ」
小林…一体何者なんだ…。