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僕と彼女の赤くない糸  作者: アクエリアス
第1章 謎の転校生
7/10

第6話 始まり

 

 待っていた、なぜそんな言葉が笑顔に出てきたのかは分からない。

 実際は5分くらいしか、屋上に着いてから時間は経っていないのだ。

 なのに、それは言わなければならない気がした。


「何いってんのあんた」


 そんな俺を朱宮は、バカにしたような表情で見つめてくる。

 やめて、そんな微妙な顔で見ないで…。


「えっと…」


 次の言葉が出てこない。

 言葉は選んで話さないとな…何から話そうかな。


 そんな俺の煮えきらない態度を見て朱宮は、痺れを切らして話してくる。


「何のようで屋上に呼び出したの…てか何で屋上なんか開いてんの?」


 屋上がなぜ開いてるのかを聞いてくる朱宮。

 そりゃ気になるよな。

 屋上は昨日でコバ先にカギを開けておいて貰うようにお願いした、なので今日は屋上が開いている。


 おっと、そんな事を話しに来たわけじゃない。

 俺は少しずつ話しを始めた。


「あーいや、その、昨日のことなんだけどな」


 そう言うと、朱宮はすぐに返事をした。


「うん、それが何よ?」


 えっと、やっぱり話しづらいな…認めなきゃならないのだ、この話をするということは。

 だが俺は、観念して喋り始める。


「俺も、挫折したんだ」


 俺も、夢を諦めたという話を。



 ---



 どこまで話をしただろう。

 ユースに上がれなかった事から始まり、身長が止まって同級生に運動能力で負け始めたこと。

 そして監督やコーチに戦力外を受けたこと。

 そこまで話をした時に、ふと気づく。


 朱宮が涙を流しているのを。


「おい、朱宮?」


 俺の言葉で気づいたのか、朱宮はハッとして涙を拭う。

 下を向いてたから、わからなかった。


「いや、違うの…ゴメンなさい…」


 朱宮の口から謝罪が述べられる。


「あたし、自分のことしか考えてなかったんだ、最低ね」


 自分のことしか考えてない?

 そんなはずがない、俺の話を聞いて涙を流してくれる、そんな子が最低なわけがない。


「そんなことねえよ」

「ううん、違わないわ」


 それでも、朱宮は否定する。

 そして、付け加えるようにこういった。


「反省するわ」


 それはキリッとした顔で真っ直ぐに言った。

 人のことを考えることのできる子なんだろう、彼女は。

 そう言った彼女を見て、俺は心の中で1つの決意が生まれる。


 彼女は、間違いなく素直な子なのだ。

 なら俺は、彼女の手伝いをしたい。

 サッカーに代わる何かを見つける手伝いを、だ。


「朱宮、1つ提案があるんだ」


 俺は、彼女にそう言った。


「な、何かしら?」


 彼女は一瞬ビクッとしたが、表情を元に戻し不思議そうにする。


「俺もさ、サッカーしかしてこなかったんだ…昔からずっと」

「そう、あたしもしてこなかったわ」


 俺たちは、サッカー以外の人生を知らないんだ。

 少なくとも、高校に入って夢中になれるものも無く、夢に出てきて絶望するくらいには。


「だからさ、俺と一緒に普通の楽しみ方を探さないか?」


 だったら、一緒に探していけばいいのだ。

 幸い、周りにはモロや月見里もいる。

 あいつらと一緒になら楽しめるだろう。


「ダメかな?」


 少しだけ考えて朱宮は、こう言った。


「あたし、ワガママよ?」

「背番号10だったからよく知ってる」


 エースナンバーを付けてるやつなんて、だいたいがそうだ。


「遊びとか全然知らないわよ?」

「2人で考えよう。

 それでもダメならモロとかツッキーに聞こうぜ、あいつらなら教えてくれるさ」


 そう、もう俺たちは、1人じゃないのだ。

 2人で考えて、それでもダメなら周りに助けを求めよう。

 コバ先に聞いてみるのもいいだろう。

 ここはピッチの上じゃない、逃げ出したっていい。


「夏になったらみんなでプールに行こうぜ、夏祭りに行くのも良さそうだ」


 秋には紅葉を見に行ったり、冬にはスキーしたりして、来年には花見だ。

 そんなことを言ったりした。


「朱宮は、どんなことしたい?」

「あたしは、花火かなあ」


 朱宮はふと、そう言ってきた。


「夏に海行って釣りやって、虫捕りとかも久しぶりにやりたいな」


 朱宮はやりたいことを次々に言ってくる。

 そんな表情はまるで無垢な子どものようだ。


「みんなでまたボーリング行ったり、カラオケも行ったりしたいな…教室で話したりするだけでもいいな」


 そういうのもいいだろう、楽しそうだ。

 そう思い、彼女に改めて訪ねてみる。


「朱宮、もう一度言うよ、俺と一緒に遊び…ちょっと違うか」


 うん、ちょっと違うな。

 遊び仲間、いや普通にあれでいいだろ。

 俺は朱宮の顔を真っ直ぐに見てこう言った。


「朱宮 夜明さん、俺と友達になってください」


 彼女は、ぎこちなくも笑顔でこう言った。


「こちらこそよろしくお願いします」




 その時、彼女の小指から見えた黒いモノが虹色の『糸』に変わったのが俺には見えた。

第1章はこれで終わりです。

次からは短編を挟みながらぎこちない2人の友人生活を描いていきます。

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