第4話 出会い
朱宮 夜明は教室の扉の前で心臓をバクバクさせていた。
緊張する…宏おじさんは、自己紹介するだけでいいって言ってたけど、やっぱり緊張するよ!
それに、昨日紹介されたってことは、彼が同じクラスメイトだってことだよね…?
「ど、どうしようかな…普通に名前だけでいいかな?」
そんなことを考えていると、入れと声をかけられた。
「えーい、ままよっ!」
私は教室に飛び込んだ。
---
教室に入ると、シーンとしていた。
ええっ?
なんで、みんな固まってるの?
普通は盛り上がるものじゃないの?
私はオロオロしながら周りを見る。
すると、彼がこっちを見ていることに気づいた。
彼は今の私の気持ちも知らずに、のほほんとしながら隣の男子を見ている。
ええい、イライラする…。
私は、当てつけのように自己紹介した。
「朱宮 夜明…ただの人間です」
シーンとした。
これは失敗だった、一瞬でわかる。
まずい、どうしよう。
「これから、よろしくお願いします」
泣きそうになるのを抑えながら、指定された席に着く。
彼の後ろだった。
私は昼休みまで、話しかけられることはなかった。
---
なんて自己紹介したんだ、この女。
みんな固まってやがる、どうやって話しかければいいんだ。
と、とりあえず俺はモロに待つようにジェスチャーする、様子見だ。
見ろ、月見里なんてどうすればいいのかわからない顔をしている。
誰も話しかけないまま、昼休みになった。
ー
ついに昼休み、朱宮に話しかけるやつが現れた。
月見里 灯だ。
彼女はすごい、尊敬に値する。
こんな得体の知れないやつにだ。
まあ、今は普通に話をしているみたいだ。
「ねえ、夜明ちゃんって読んでいい?」
「別にいいわよ…どうぞ」
「えへへ、じゃああたしの事もアッカリーンて呼んでいいよー?」
「それはまずいので遠慮するわ」
さりげなく変なことをぶち込んだ月見里だが、さてどうするかと考えていた。
もう月見里と仲良くしてるならいいんじゃないのか?
と、俺が考えていると以外なやつが話しかけてきた。
「月見里、俺も混ぜてくれよ」
そう、モロだ。
この男、やはり手を出すのが早そうだ。
なんて、考えているとモロは続いて…
「俺は両角、こっちは光、よろしく朱宮さん」
持ち前のイケメンスキルを発揮して朱宮に話しかけている。
「あ、よ、よろしく。…朱宮 夜明です」
こっちを見ながらそう言った。
その後は、そこそこ話をしながら月見里は仲良くなっていた。
今日はこれくらいでいいかな…。
---
学校も終わったので、帰り支度を進めていると月見里が話しかけてきた。
「ヒカ、今日空いてる?」
「まあ、暇っちゃ暇だけど…」
なにか嫌な予感がする。
「じゃあ夜明ちゃんとモロ君と4人遊びに行こ‼︎」
遊びの誘いだった。
しかし、モロはともかく俺は行っていいのかと思っていると彼女がこっちを見ている。
どうやら良さそうだ。
なら、お言葉に甘えよう。
「わかった、行くよ」
「オッケー、じゃあボーリングね!」
もう行くところを決めているらしい。
なんてせっかちなやつだ。
モロなんて、よく見ると手袋をつけている。
こいつら、絶対今日突然誘うつもりだったな…。
---
ボーリング…久しぶりだな。
サッカーやめたときは、丸いものを見るのも嫌な時期があったのにな…。
なんてしみじみ思っていると、月見里がボールを投げる。
「おらー」
月見里の投げた球は勢いよく、ガーターに向かって行く。
ガコッと音がしながらガーターに入った。
「ツッキー下手くそすぎだろ!」
俺は腹を抱えて笑う。
「言ったなー、じゃあヒカは上手いのね?」
「まあ見てろって…ほらよ!」
よし…手応えあり、ストライクだ!
「おおー」
月見里とモロはパチパチと拍手をする。
そして、俺に笑顔で話しかける。
「コツ教えて!」
「しょーがねーな、こうやって…」
ちなみに、朱宮はそこそこ上手かった。
---
少し休憩しよう、と思いジュース買ってくるとみんなに言い俺はみんなの分のジュースも買いに行く。
ふう、ボーリングをやるのは久しぶりだからな、普段使わない筋肉を使うとキツイな…明日筋肉痛かも知れないな、と俺が思っていると待っているやつがいた。
そこには、朱宮 夜明がいたのだ。
朱宮は、俺を見ると唐突に話しかけてきた。
「お疲れさま…」
「お、おう…」
戸惑う俺、だが朱宮は続ける。
「なかなか強引な子なのね、あの子」
あの子…月見里のことか。
そう思い、俺は返事を返す。
「ああ、ツッキーはあんなやつだよ」
そう返すと、朱宮は不思議そうに質問する。
「なんで、ツッキーなの?」
ああ、そんなことかと思いつつ…
「月見里だから月をとってツッキーだよ、最初つきみざとって読んじまったんだ」
最初は、悪いことをしたなと思ったんだが、今は気に入ったので呼び続けている。
それ以外にも理由はあるのだが…朱宮には秘密にする。
「ぷ…あはは、そんな理由!?」
そう答えると、彼女は笑い出した。
彼女が笑うところを見るのは初めてだ。
やはり、こうしてみると美少女だ。
「あ…」
そうしていると、気づいたのか彼女はばつの悪そうな顔でこう言った。
「ねえ、本当に私のこと覚えてない?」
また、そんなことを言ってくる。
うーん、わからない…。
「せめてヒントを教えてくれよ…分からないままは結構こたえるんだぜ?」
そういうと、彼女は少し考えて…
「2年前の大阪杯、2回戦」
聞いたことのある大会名。
「会場は、市民グラウンドで、ナニワレッジと阪南キッカーズの試合…」
そこまで聞いて、俺は気づく。
「わかる?…レッジの7番君」
「阪南キッカーズの10番!」
ああ、確かに出会っていた。
俺たちは、ピッチの中央で。