第3話 その少女は
「はあ…最悪」
朱宮 夜明はため息をついていた。
昨日は取り乱してしまった、情けない。
でも、彼がいるなんて予想外だった。
それに、あたしのことを覚えていない。
「まあ、覚えてるわけないよね」
本当は、覚えているはずがないのだ。
彼に覚えていて欲しかったのは、夜明のエゴだ。
「でも、全然知らないはいいすぎじゃないかな…」
彼の態度を思い出して、夜明はイライラする。
夜明の人生最悪の日を、もたらした、それが彼なのだ。
夜明は、それを考えるのをやめ、早めに眠りについた。
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俺はいつもより少しだけ朝早く、起きる。
今日は特別に30分前に教室に着くように行動することにする。
朱宮をクラスに馴染ませたりするために、ある男の力を借りるのだ。
そう考えて、自宅を後にする。
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自宅から駅までは10分ほど、それから電車で学校近くの駅まではさらに10分ほどだ。
俺の通う、りん海星南高校は、大阪の南部に位置する公立高校だ。
校則がゆるく、制服が可愛いということで女子には人気らしい。
「これなら30分前には教室に着くな…」
俺は、余裕を持って学校に行くために駅に着いて電車を待っている。
するとやかましいやつがやってきた。
「ヒカ、おっはよ〜」
「ツッキー、今日は早いじゃん」
月見里こと、ツッキーだ。
おかしい、彼女はいつもは5分前に教室に着く。
なにか問題でも起こったか?
「いや〜、今日は目が覚めちゃって」
なんだ、たまたまかか…まあ、そういうやつだよな。
「ヒカこそ、いつもより早くない?
なんかあったの?」
そんなことを考えてると、月見里が疑問を持ったのか質問してくる。
「いや、モロにちょっと相談があってね」
「モロ君に?
やっぱりなんかあったんだ…」
月見里は、こういう時に変に鋭かったりするのだ。
中学の時も、色々と勘付かれたりした。
「まあいいや、それより今度遊びに行こー?」
まあ基本は能天気なやつなので、気にはしない。
それに、中学の時はこいつのおかげで救われた所もあるので、邪険にはできない。
なので、適当に返事をしておいた。
「いいよ、モロやみんな誘ってカラオケでも行くか?」
その時月見里は、一瞬残念そうな顔を見せた。
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俺は教室に着くと、モロを探し始める。
こういう時、モロは頼りになる。
あいつは大人な面が強く、相談事をよく聞いてくれる。
モロの机を見ると…居た。
1人でスマホを弄っている。
探すまでもなかったと思い、モロに話しかける。
「おっす、モロ」
「あれヒカ、今日は珍しく早いじゃん?
それに月見里と一緒に登校して、なんかあったか?」
こいつは何を勘違いしている?
「いや、お前に少し相談があってな」
「相談?
俺がお前にできることなんて、そうそうないぜ?」
モロは意外と、自己評価が低い。
そういう所や、人の嫌な所は聞いてこない性格なので俺は一緒にいると、気を使わないので楽なのだ。
「嫌なら、断ってくれてもいいんだ。
だから話だけでも聞いてくれよ」
「まあいいけどさ、じゃあ話してくれよ」
さて、何から話すか…?
転校生が来るって所からか…。
「今日、転校生来るって知ってるか?」
「いや知らねえけど…コバ先情報か?」
おお、こいつは物分かりが早い。
なら、そこからの話でいいだろう。
「そうそう、昨日俺コバ先に呼ばれたじゃん?それで、その時教えられてさ」
「ああ、それで昨日呼ばれたのか」
モロは相槌を打ちながらも、俺が呼ばれた理由とかは聞いてこない。
「それで、モロにはそいつをクラスに馴染ませる手伝いしてやって欲しいんだよ」
「え?
なんで俺なんだ?」
疑問を持ったのか、そこには質問を返してくるモロ。
「いや、そいつに初対面で俺嫌われててな…多分俺はあんまり話できないんだ」
「そうなのか…」
モロが困ったように考える顔をしている。
モロが協力してくれないと、本当に俺はあの子を見ているくらいしかできない。
コバ先には悪いが、その時は諦めてもらおう。
少しした後、モロはいつもの顔をしてー
「分かったよ、協力するぜ」
と、言ってくれた。
流石はモロ、頼りになる男だ。
思えば、中3からこの男には世話になってばかりだ。
「サンキュー、それじゃもうすぐホームルームだからよろしく頼むぜ」
俺がそういうと、チャイムが鳴りコバ先が入ってきた。
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「ホームルームを始める前に、1つ話がある」
コバ先が話始めると、周囲がざわつく。
だが、それも少しだけだ。
落ち着くと、コバ先は話始めた。
「えー、今日からこのクラスに転校生がくる。
みんな仲良くするよーに」
適当なことを言ってみんなを落ち着かせるようにしている。
月見里なんて、「イケメンかな!それとも美人!」なんて言いながら暴れている。
コバ先は、そして彼女を読んだ。
「えー朱宮、入って来なさい」
彼女はクラスのドアを開けて入ってきた。
一瞬でクラスは沈黙した。
やはり美少女だからだろう。
なんなら、モロなんて俺を見ながら聞いてないといった顔で見てくる。
当たり前だ…言ってないからな。
そんな沈黙を察したのか、コバ先は彼女に促す。
「自己紹介しなさい」
そんな彼女は、チョークを使い黒板に文字を書きー
こう言った。
「朱宮 夜明…ただの人間です」
彼女の席は、俺の後ろだった。