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がめついパイロット

がめついパイロット 伝説の花

作者: 電子紙魚

 ジャンはポケットに両手を突っ込んで歩いていた。

 冷たい北風が左から吹いてくる。今にも雪が降ってきそうな空模様だった。

 ジャンの後ろにパーティの血塗られた剣が2列になっていた。

 6人の血塗られた剣たちは寒そうに背を丸めていた。

 ジャンだけはコートが暖かいのか前を閉めていない。

 吹きさらしで足元には薄く雪が積もっていた。

 前後左右どこを見ていも一面の白景色。曇っているために方角すら分からなくなりそうだった。

 ついにこらえ切れなくなったのか1人の剣士が、「本当にこっちであっているのか?」

 ジャンは振り返りもせずに、「問題ない。明日の朝には目的地だ」

 魔法使いが音を上げた。「疲れた。一休みしたい。それに温かいものを食べたい」

 剣士に神官、盗賊も賛成し、リーダーでもう1人の剣士が小休止にした。

 6人は円陣になり魔法使いの火で暖を取りながら鍋で雪を溶かした。

 混じったごみを取り除き、乾燥したスープの素を放り込んだ。

 食欲をそそる匂いが立ち込める。燻製肉を剣士が削ってスープに加えた。

 ジャンは一人離れたところでロッキングチェアに座っていた。

 リーダーがスープをおすそ分けしようと近寄るとロッキングチェアの横にテーブルがあった。

 テーブルには手の込んだ熱々のクリームスープがコーヒーカップに入っていた。

 ジャンは右手のハンバーガーを頬張っていた。

 クリームスープにしろハンバーガーにしろリーダーが見たことも聞いたこともないものだった。

 ジャンが顔を上げた。「もう出発か?」リーダーは首を横に振った。「いや、珍しいものばかりだな」

「そうか? 俺にとってはありきたりなんだが」

 リーダーは自分たちの集団に戻った。

 ジャンが左腕を横にあげて立ち止まった。「狼の群れが来る。頭数は13だ。どうする?」

 リーダのガスが即座に、「逃げられるか?」ジャンは首を横に振った。

 血塗られた剣たちが1名を除いて腹をくくるのは早かった。

 盗賊が前に出て狼の動向を偵察する。

 剣士が動揺している臨時参加している女の子のカバーに入った。

 2人の後ろには神官が立った。リーダーと魔法使いが前にでた。

 ジャンは手持ち無沙汰そうにロッキングチェアに身をゆだねていた。

 盗賊が戻ってきた。指の動きで簡単な打ち合わせをした。

 神官が矢を3本番えた。魔法使いが詠唱を始めた。

 矢を斜め上に放った。狼のリーダー思われる1匹を狙っていた。

 狼のリーダーが前進した。魔法使いが矢と似たような軌道で氷の槍を飛ばした。

 狼のリーダーに氷の槍が突き刺さった。リーダーがやられたことで群れが逃げた。

 ジャンが拍手した。「お見事。さすがにいい連携をしているね」

 馬鹿にしているようなニュアンスだったので血塗られた剣たちの顔が露骨にゆがんだ。

 ジャンが手をかざして狼たちが去った方角に顔を向けた。

「去っていったね。問題は別口がもう来ているってことかな」

「何っ」冒険者たちの顔が険しくなった。

「アンデッドウルフが20集まっている。これは面倒だね。迂回するかい?」

 ガスは迂回と即答した。アンデッドウルフは通常の武器で倒すことは難しい。

 それが5倍もいたら殺されてしまう。だがアンデッドウルフの動きは鈍い。

 誘導を間違えるはずもなくアンデッドウルフから遠ざかっていた。

 その代わりに目的地までの所要時間は増えた。

 鬱陶しい雲のために日没しているのかいないのかはっきりしない。

 ガスは野営を決断した。臨時加入以外の5人がせわしなく動きテントを張った。

 魔法で土の竈を作り、魔法の火で料理する。

 昼のスープと違って少し手が込んでいた。ポタージュスープらしい。

 ジャンはどこから持ち出したのか10人は入れるゲルの中で海鮮鍋を缶ビール片手につついていた。

 ゲルの中は煌々と照明で照らされていた。ゲルの外に灯りは漏れていない。

 血塗られた剣たちはあきれて何も言えなくなった。

 歩き始めて2時間でジャンの足が止まった。

「51人が前方で陣を敷いている。詳細な情報が欲しいか?」

 ジャンの質問にガスが臨時加入に顔を向けた。

 臨時加入が小さく頷いた。「頼む」ガスが頼んだ。

「全員が皮鎧姿だ。兜はないが鉢巻を巻いているものがいる。一見すると野盗のようだが、

鎧には染み一つない。武装だが、盾が、槍、弓それに杖‐これは魔法使いだろうがそれぞれ10、

剣が6、たぶん残りは僧侶か神官だな。外側から盾、槍、弓、魔法使いの順にかたまっている。

だいたい1つの兵科が3から4人。3つの集団が3方向ににらみを利かせている。

おっと忘れるところだったが、剣士と治癒系は3つの中心にいるぞ。布陣からしても

野盗ではなく軍だな」

「待ち構えているということは我々より先に到着しているということだ。どういうことだ?」

 ガスがジャンに詰め寄った。

「魔物との遭遇を極力避けたために最短ではない。だがこの人数で最短ルートの突破は無理だ。

彼らはまったく戦った形跡がない。しかも中心には物資が山のように積まれている。

ここからいえることは彼らはもっと大勢でやってきたということだ。彼らを送り届けるために。

目的を果たしたから帰還途中だと思う。どのくらいが生きて戻れるか知らないが」

 血塗られた剣たちの喉がごくりとなった。待ち構えている51人にしても生きて帰れないかもしれない。

 自分たちがどれほど危険な場所を通過してきたのか思い出していた。

 噂からすればわずか7人で草原の奥深くまで来られるはずがない。

 臨時加入がガスに耳打ちした。

「集団のリーダーの顔とかは分かるか?」ガスには集団すら見えていない。

 わかるはずがないという感情が込められていた。

「たぶんあれかな。刈り込んだ胡麻塩頭に左頬に1本の長い傷跡がある。50過ぎのおっさん」

 ガスが息をのんだ。振り返って臨時加入に目を向けた。

「そうですかマリウス将軍が」鈴を転がすようなだがきっぱりとした声だった。

 ガスが息をのんだのは相手の指揮官のことだけでなく、ジャンの能力もだった。

 ガスを含めた血塗られた剣たちには集団すら見えていない。

「疑うわけではないが、トムを斥候に出してもいいか?」

「問題ない。よほど接近しない限り相手は攻撃もしないだろう」

 盗賊が戻ってきた。「ジャンの言っていることは本当だ。俺に気づくとわざわざ将軍が寄ってきたよ」

 ガスがジャンに謝罪した。将軍の性格を知っているからだった。

 戦場では老獪だが、その前に陰湿な策は弄しない。

 それ故に臨時加入とジャンを含めても7倍の相手に勝てるはずがない。

「あの陣を迂回する道はないのか?」

「あるが数倍の魔物とやりあうことになる。どちらかを選ぶしかない。じっくり考えたらいい」

 ガスと臨時加入が座り込む。その周囲に血塗られた剣たちが立った。

 ジャンはいつものようにロッキングチェアに身をゆだねた。

 目をつぶっていたが寝たわけではなかった。ニヤリと右の口角が上がった。

 ロッキングチェアまでガスが2mになったときジャンが上半身を起こした。

「朗報かな。ジャイアントホースがやってきます」

 ガスの動きが止まった。ジャイアントホースは草原の守護神だった。

 草原の秩序を乱すものを排除する。マリウスはやりすぎてしまった。

 マリウスたちがやってきたであろう方向からジャイアントホースが走ってくる。

 走るというよりも天翔けるというべきか。ジャン以外の何者もそれを知るすべはない。

 当然マリウスの部隊も地平線に姿を現してやっと戦闘態勢に移行した。

 ジャイアントホースの体高は10mを超える。足の長さだけでも5mはある。

 体長ともなると尾を除いても25mはある。重量は5トンはある。

 ジャイアントホースがマリウス軍を蹂躙した。

 連携を取って被害を最小にしているが、矢も弓も魔法も効果がない相手には

50人あまりの戦力では抗しようもなかった。1人、2人と踏み潰されていく。

 臨時加入がマリウス軍を指さして、「どうかあの者たちを救ってはくれまいか?」

「妨害しようとした連中だぞ。どうしてもというのなら金貨千枚だ」

 ジャンがガスに、「同じパーティ内のメンバーじゃ証人にはなれないのだが、

今回は臨時加入だからいいだろう。血塗られた剣が証人になるか?」

 ガスが大きく頷いた。

 パチンと指を鳴らすとジャイアントホースが浮き上がった。

 ジャイアントホースは体をくねらせしきりに抵抗するが空中にとどまった。

 マリウスの兵たちは呆然と見上げていた。巨大な手でつかまれているようにジャイアントホースが宙を滑っていく。

 やがて姿が見えなくなった。

 臨時加入がマリウスの近くまで駆け寄った。血塗られた剣たちも続く。

 ジャンだけが残されたが、気にしている様子はない。その場でロッキングチェアに腰を下ろした。

 臨時加入がローブのフードを取り去った。

 兵士たちから、「姫様」の声が上がった。

「マリウスよ。お前たちは草原の神の怒りを買った。早々に立ち去るがよい」

 マリウスが平伏した。「恐れながら我らは王命にてこの地に参りましたもの。使命を果たさずして去るわけにはまいりません」

「ならば我と1対1の勝負をいたせ。我が負けたのならばお前たちとともに帰還しよう。

だが、我が勝った場合はお前たちだけが戻るのだ。よいか」

 マリウスが立ち上がった。「お相手仕ります」

 マリウスが剣を抜いた。姫は柄に手を添えただけだった。

 マリウスが神速で近寄り袈裟懸けに剣を振り落とした。

 姫は抜き手も見せずに逆袈裟に剣を振り、鞘に戻した。

 マリウスの剣がすっぱりと途中からなくなっていた。

 昼休みが終わり、3時間ほどでガスたちは1体の塑像を目撃した。

 ジャンが指さした。「あの下にあんたたちが求めているものがある」

 その場でロッキングチェアに深々と腰を下ろした。

 血塗られた剣の6人が塑像に近づく。足元には一輪の花が咲いていた。

 「あれが『乙女の涙』のようですね」ガスの問いに、姫はうむと答えた。

 持ち帰れば国が豊かになるという伝説の花。小さいが金色に輝いている。

 残り数歩で塑像が息を吹き返した。両手に大剣を握っているケンタウルスが姫たちをにらんだ。

 姫たち6人はケンタウルスにあっさりと組み伏せられた。

 ケンタウルスの2の剣には刃がなかったが、打撃だけでも骨が折れた。

 這う這うの体で退却してきた。「ケンタウルスを追い払ってくれないかしら」

「追加料金は金貨1万枚だ。ディスカウントはしない」

「そっそれはいくらなんでも高すぎる」姫の顔が青ざめた。

 ジャンに支払うのはすでに金貨1100枚になっている。姫の個人資産をすでに上回っていた。

 さらに1万ともなると国が傾きかねない。

「千枚で1つアドバイスをやる。実行できたら千枚でもおつりがくる代物付きだ」

 姫が小首をかしげた。考えがまとまったのか、「いいわ、アドバイスを金貨千枚で買うわ」

 姫を指さして、「あんたが1人でケンタウルスに近づき、人と馬の境目にキスしろ。それだけだ」

 ガスたちが気色ばんだ。「姫を殺させるつもりか?」

「あれは人を殺さない。殺すつもりならあんたたちはとっくに死んでいる」

 ガスたちはグッと息を飲み込んだ。レベルが大人と子供くらいの差がある。

 身をもって体験しているが、それは姫も同じだ。

 姫は覚悟を決めたように丸腰になって踏み出した。

 ケンタウルスが姫に目を向ける。姫も負けじと顔を固定する。

 見つめあいながら姫は足を止めない。唇が境目に触れた。

 ケンタウルスが輝いた。ユニコーンへと姿を変えた。

 ガスたちは唖然とした。姫が『乙女の涙』を手折った。ユニコーンにひらりとまたがった。

 ユニコーンが翼を広げた。国元へと姿が小さくなった。

 兵力の低下を奇貨とした隣国に攻められたリーン王国だったが、第1王女エリザベスが撃退した。

 エリザベスはユニコーンで空から単騎がけし、敵の司令官を打ち取った。

 それによって敵は総崩れとなり、リーン王国が逆に攻め込んだ。

 隣国から多額の賠償金を得、兵力低下を招いた弟は継承権を失った。

 病身の国王は退き、エリザベスが王位を受け継いだ。

 即位式には近衛に復帰した血塗られた剣も女王の近くに侍っていた。


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