90. Re-sleep
「……はっ!」
もういちど理里が目を開けると、そこは自分の部屋だった。白い壁紙、でかでかと貼ったロックバンドのポスターは、左上のピンだけ少しゆるい。
「あっ。おきたんだね」
声がした右側に目をやると、
「うわっ!?」
姉が、真横で寝ていた。長いまつげを寄せて、彼女は柔らかい手で理里の頬に触れる。
「おはよう。よく寝られた?」
「……ああ、いや」
よくわからない夢を見て、あまり寝起きはかんばしくない。そう伝えると、彼女はほころんだ顔で、親指を理里の唇に当てた。
「そう。じゃあ、もう一度目を閉じてみて?」
「えっ……ああ」
戸惑いつつも、理里は姉の言うままに瞼を閉じる。すると、
「……あっ!?」
ぽにょ。
顔を包む、柔らかい胸の感触。抱き寄せられた。
「実は、まだ夜中の四時なの。だから、まだ寝てていいんだよ……おねえちゃんがいっしょだからね。ずっと、ずうっと、いっしょだから」
(珠飛……亜……)
ほのかに香るフローラル。湯上がりの女性の甘やかな香りが、やさしく理里をつつみこむ。さきほどの夢とは違う、かぎなれた香りの安心。
柔肌と芳香に抱かれて、理里はふたたびおだやかな眠りに落ちていった。




