BAD & CLEVER GUYS
「…………」
有村 大河は、口にくわえた棒つきキャンディーを回しながら、中庭のベンチに腰掛けて地面を見つめていた。
否、常人からはそのようにしか見えない。
「順調ですか? 情報収集は」
手塩が彼の傍らに現れる。
「…………」
黒髪まじりの金髪の大河は答えない。
(……ああ、今まさに任務遂行中でしたか)
納得し、手塩はブレザーを着崩した大河の隣に腰掛ける。
数分ほど経って、大河はキャンディの棒を口から出した。
「ふう……お、手塩じゃねえか。悪ィな、気づかなくて」
「いえいえ、良いのですよ。その後新たな情報は?」
「特に目立つものはないな。珠飛亜先輩がサッカーで大逆転劇をやったってエピソードは得られたが、聞くか?」
「心底どうでもいいですね……」
現在、柚葉高校一年九組……つまりは理里のクラスの壁に、大河の"斥候"が張り付いている。それと五感を共有させることで、大河は理里と珠飛亜の動向を観察することが可能なのだ。
彼もまた、手塩と志を同じくする"英雄"のひとりである。
「居宅への拠点の設置を防がれたのは痛かったが、あいつらも小さい気配には気づかないらしい。怪原家の誰かが出入りする瞬間、玄関だけは結界が解けるから侵入は簡単だった。お陰で今のところ順調だよ」
「そうですね。昨日は貴重な情報も得られたことですし」
理里が目覚めた瞬間にも大河の"斥候"は立ち会っていた。その後の会話も全て彼の耳にするところだ。現在分かっていることは三つ。
・怪原理里は異能に目覚めた。それも、『石化の光を放つ邪眼』という強力なものである。
・しかし、その異能にはリスクがある。体力を大幅に消費し、使用後は強烈な眠気に襲われて昏睡状態に陥る。
・怪原家はそれぞれ二人一組で行動するようになった。
最も重要な情報は二つ目だ。邪眼の使用後において、理里は無防備な状態になることが発覚したのだ。邪眼を何らかの形で空撃ちさせれば、彼はただのトカゲ男。
が、ここで問題となるのが三つ目の情報だ。護衛の珠飛亜がいては、邪眼使用後のスキを突くことが叶わない。しかも珠飛亜には翼があるため、早々に離脱を許してしまう。
だが、全ての条件を鑑みても大河の異能は彼らの抹殺に適していた。
「魔神がどこにいるのか、奴らには分からねえらしい。これ以上有益な情報はなさそうだ」
「全員の異能力や戦闘力については、とうの昔に洗い出してありますしね。そろそろ動いてもらいましょうか」
「ああ……頃合いのようだな」
大河はベンチから立ち上がる。
「本来なら、俺と怪原理里の異能の相性は最悪だ。だが今回に限ってはそうでもねえ。護衛がいる状況で奴が邪眼を使うように仕向けるのなら、俺以上に適した人選は無えぜ」
「Exactry。期待していますよ」
二人の英雄は目を合わせ、不敵に嗤った。