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星狩りのレプタイル ー邪眼の蜥蜴と夜空の英雄たちー  作者: 若槻味蕾
第4章「天馬騎士と氷の獅子」
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76. Don't stop him now

「クク……テセウス、もはやあなたもわたしの敵ではなかったわけだ」


 籠愛は悦に入る。


 手塩を吹っ飛ばしたのは圧縮空気弾。俗にいう『空気砲』だ。極度に圧縮した空気の塊を彼の腹部にぶつけた。

 手塩の持ち出した『パイアの皮』は、大英雄の盾に匹敵する鎧だ。斬撃に対する防御としては有効……だが、鎧の中の肉体に直接ダメージを与える方法は太極拳や骨法(こっぽう)などの武術に伝わっている。弾丸のエネルギーが最も伝わる点を、鎧の表面でなく内部に設定して放つ……具体的には、限界まで圧縮した空気をゼロ距離で放つ。

 パイアの皮にも多少の衝撃吸収性能はあっただろう。だが、強化され『大気の(アトモスフィア・)支配者(・ドミネイター)』となった籠愛の異能の前ではそれも無意味だった。


「また一人、思わぬ奇襲だったが退けた。……そろそろ貴様にも退場してもらおうか、エキドナ!」


 右側。膨張しつづける炎の獅子の向こうから、追って来る黒焔の大蛇が八匹。


(『空気探信儀(エア・ソナー)』、すでに貴様の位置は把握している)


 微弱な空気の波を放ち、その反射で効果範囲内の敵の位置を探る。恵奈は現在、籠愛の後方九〇メートルほどの位置に居る。黒炎の大蛇をおとりにして自分は後方から奇襲をかけるつもりだ。

 位置がバレているとも知らず。あげく効果範囲の予測にも失敗している。範囲の拡張後、八〇メートルの距離から放った『刃』からの想定だろうが……


「甘い、甘いぞエキドナァァ!」


 すでに彼女の周辺に、圧縮空気弾と空気の刃を多数配置。もはや逃げ場はない。『五秒後』を見通す未来視の瞳でもこの刃と弾丸は視えない。


 彼女の身体を覆う黒炎の鎧は、固体の武器を防御するには有効だ。金属製の剣や弾丸を打ち込んでも溶かして蒸発させられるからだ。

 しかし、意志によって収束された空気の刃や弾丸は気体だ。『熱』そのものが多少の防御にはなるかもしれないが、空気の武器を破壊することはできない。


「ずいぶんと貴様には手こずったが……さらばだ、怪物の母よ」


 グッ、と、右手を握る。それに呼応して解き放たれる、斬撃と衝撃。無数の不可視の刃と弾丸が、怪物の母を切り刻まんと放たれる。


 血が飛んだ、のかは分からない。籠愛は後方を見てもいない。……だが、彼女が息絶えたかを判断する材料は、すでに彼の視界に入っていた。


「ふはははは……! やった、やったぞ……!」


 右側、八匹の大蛇が静止した。

 徐々にその姿が薄れていく。黒炎が、消えていく。


「残る邪魔者はアタランテとケルベロス、そしてヒュドラ……たかが三匹で、何ができる!! あーっはっはっは!!」


 籠愛は笑う。眼の前で、はちきれんばかりにキマイラの炎が膨らんでいる。でっぷりと割れかけの水風船のように。


 ゆっくりと、しかし確実に、柚葉市はふたたび死の氷炎に包まれようとしている。


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