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星狩りのレプタイル ー邪眼の蜥蜴と夜空の英雄たちー  作者: 若槻味蕾
第4章「天馬騎士と氷の獅子」
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75. 衝撃

「貴様、なぜキマイラの中から!? なぜ凍死していない!」


 籠愛は動揺した。出てくると思っていなかった人間が出てくるはずのない場所から現れた。

 テセウス……鳥人間(ハルピュイア)となった手塩は、静かな口調で答える。


「この獅子の身体を構成する炎は循環している……一か所にとどまらず身体全体を流れることで形を保っている。それに気付いた私は体表面に運ばれるのを待って脱出したわけです。表面で氷を割るだけなら造作も無いことだ」


 そう言った鳥人間(手塩)の足のかぎづめは、黒い鞘に収まった剣を握っている。


「バカな……そんなことが!」

「私の話はどうでもいい。それよりヒッポノオス、君だ! 君はどうしてそのように堕落した!」


 手塩の眼は怒りに震えていた。


「私は君を信じていた……! 十五年前のテュフォーン撃退戦で活躍した君なら、きっと合理的に事態の収束に当たってくれると信じていた。信頼していた!

 それが何だ、この有り様は? なぜキマイラを暴走させようとしている! 怪原家の者どもですらそのような蛮行は望んでいない!」


 手塩は激昂する。が、籠愛は目を伏せてつぶやいた。


「……あなたには分かりませんよ。影のない英雄のあなたには、永遠にね」


 籠愛は目を逸らした。手塩の強い怒りの眼を、なぜか直視できなかった。


「なぜだ? なぜそのような愚かな考えに至った? 人類を滅ぼすなどと……あの妄言は何だ!」


「妄言ではない! 私の尊い使命を汚すなッ!!」


 籠愛は駄々っ子のように首を振る。耳の痛い言葉には耳を貸さん、とでもいうように。


「使命だと? 君の使命は、神々に仕えることではなかったのか!」


 手塩は目を見開く。だが、彼の驚きは籠愛には伝わらない。籠愛は目を固く閉じ、耳を塞いでいた。


「人類はまごうことなき悪だ! それを庇護するオリンポスの神々も悪だ! それに気付けたのは、世界に否定されつづけたわたしだからだ! 悲惨な運命に(もてあそ)ばれつづけたわたしだからこそだ! だからこそ、その邪悪を征伐するのはわたしでなくてはならない……! 『人類』という悪をわたしは討滅するのだ! それがわたしの使命なのだ!」


「ヒッポノオス、君は……」


 憐れむような声も、籠愛の耳には入らない。


「それを邪魔するというのなら……貴様も、死ねェ!!」

「っ!?」


 かつてなく吹き荒れる暴風。豪雪をまき散らし、吹き上げ、風が巨大な渦を巻く。

 風のすべては斬撃だった。コンクリート壁を切り飛ばし、木々を破壊し、吹き上げた乗用車すらも細切れに破砕する。


 風刃領域の進化形……嵐刃(サベイジング・)領域(フェザーストーム)。名付けるならばそんなところか。


「くっ……」


 手塩は空を後退する。あの『刃』の威力は知っている。鋼鉄ですら切り裂く『空気の刃』だ。

 だが、手塩の方も手が無いわけではない。


「血液情報検索、名称『Phaia(パイア)同時(シムルタニオス・)反映イアム・メディタティオ!」


 手塩の身体を覆う羽毛の、()()()()()()()()()。さらさらと柔らかかった茶色の毛が、ごわごわと黒く硬質に瞬時に変化する。牙もより太く伸びる……まるでイノシシのように。

 しかし体の構造は変化しない。ただ毛が生え変わっただけだ。


(我が第三の功業にて倒した大猪パイア……その皮の固さは大英雄アイアスの盾にも及ぶ!)


 人面鳥(ハルピュイア)の翼を羽ばたかせ手塩は突っ込む。黒々とした牝猪(パイア)の皮は威力を増した『空気の刃』もものともしない。


「ヒッポノオス……目を、覚ませッ!!!!」


 鳥の足で、神剣の柄頭を振り上げる。眼前に迫った空の英雄の脳天目がけてそれを振り下ろす――


「――ごあっ!?」


 突如、手塩の腹部に強烈な衝撃。


「ははあ……刃を通さない無敵の皮も、『衝撃』には弱かったようだなぁ!」

「なにィ……ごはっ」


 籠愛が何か言ったが、聞き取れずに手塩は上方に吹っ飛んだ。大きく弧を描き、羽の生えたヒトが落下してゆく。


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