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星狩りのレプタイル ー邪眼の蜥蜴と夜空の英雄たちー  作者: 若槻味蕾
第4章「天馬騎士と氷の獅子」
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71. Darkness Flame

「かっ……あ」


 恵奈は凍った地面にあお向けで倒れていた。


 ベレロフォンから逃げる途中、どういうわけか翼が機能しなくなって墜落してしまった。抱えていた麗華はどうにかかばえた……しかし次に襲ったのがこの酸欠だ。


(ベレロフォン……こんな芸当までできるとは)


 遠のく頭で恵奈は歯嚙みする。


(どうにか切り抜けないと……)


 恵奈は無酸素状況でも二時間は活動できる。この真空圏から抜け出せなかったとしても籠愛とは戦える。


 だが、


(……問題はこの子よ)


 身体の上に抱いた麗華。

 すでに血管が()()()に浮いている。無酸素状態に入って三〇秒と経っていないが、もう窒息の症状が出ている。


 麗華は手塩や蘭子のような肉体派ではないらしい……つまり、身体が一般人と変わらないわけだ。

 人間はわずか五分前後で窒息死するという。そのわずかな時間で能力の発動元である籠愛を倒すか、麗華を『空気の支配者(エア・ドミネイター)』の範囲の外に出すか。


 どちらも絶望的だ。


 前者は恵奈から籠愛への攻撃手段が無いのが問題。彼はいま上空五〇メートルほどの位置に滞空し、『風刃領域ランブリング・フェザーボール』を展開している。飛び道具は全て風の刃に弾き返されるうえ、毒の粉も残っていない。


 後者については、おそらく籠愛は恵奈の周辺を狙って空気を無くしているので、『出る』というのは事実上不可能だ。効果範囲外に出ようにも起点である籠愛自身が追ってくる、つまり無酸素領域そのものが恵奈たちを追ってくるから、移動したところで変わらない。


 もはや手は無い。恵奈にできるのは麗華を捨てて逃げることだけだ……



 ――いや、()()()()()()、反撃の手段はある。


 さきほど籠愛と戦った際、毒の粉に思い至る前に踏み切りかけた禁断の手が――



(やはり使うしかない……わたしの、()()()()()を)



 恵奈は空を睨む。宙に浮かび、腕を組んで嗤う籠愛を睨む。


 その能力を使えば、恵奈の『何より大切なもの』のひとつを失うかもしれない。だが、なりふり構ってはいられない。今は絶体絶命の状況で、その能力を使えば打破できる状況だ。


 であれば、使わない選択肢は無い。



「――(おこ)るは、我が怒り」



 口に出す。それは、その能力(ちから)を縛る鎖。そして、それを解く鍵である『言葉』。



()べるは、我が決意(おもい)



 魂にかけた枷が外れる。ひとつ、またひとつ、その度に恵奈の周りの風景がかげろうのように揺らぐ。



「燃ゆるは、我が魂――」



 恵奈は麗華を地面に降ろし、右手を天に掲げる。青白い(てのひら)から火花が散る。



「我、此処に(のたま)う。



 其は、()が為にあらじ。



 其は、()が為にあらじ。



 其は、()が為にあらじ」



 ぼう、と、火花は小さな火の玉に変わる。冷たく青い焔ではない――しかしながら、灼熱深紅の炎でもない。


 黒。恵奈の翼や髪と同じ漆黒。全てを塗り潰し、総てを飲み込む闇の色。


「我が服膺(ふくよう)の欠片を食らい、燃え盛れ――



 "黒燄煉劫儛レイム・オブ・リブレイズ"」



 瞬間、炎は恵奈の全身に燃え広がる。白い肌も、髪も、牡牛のような角も、蛇の身体も、全てを黒い焔が覆い尽くす。


 なれど、恵奈は声一つ上げない。黒炎が身体を包んでも微動だにしない。


 炎が全身を飲み込む――否、恵奈が飲み込まれたのではない。主導権は炎の方ではない。


 恵奈が、黒焔を()()()のだ。全てを灰燼へと帰す昏き焔を。


黒燄煉劫儛レイム・オブ・リブレイズ、第一形態・滅龍轟哮(バハムート)


 それが、この凶暴なる黒炎の鎧の名であった。


「さあ……反撃よ」


 黒より黒き焔をまとった女怪が、その黄色い双眸を光らせる。

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