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星狩りのレプタイル ー邪眼の蜥蜴と夜空の英雄たちー  作者: 若槻味蕾
第4章「天馬騎士と氷の獅子」
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70. Lover's suffering

 と、炎の獅子の視線が滞空する珠飛亜を見上げた。



「え、うそ!?」



 ――見つかった。



「GOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!!!!!!!!!!!」



 咆哮する獅子。巨体の青い炎が燃えさかる。


 古代樹のごとくそびえる脚を浮かせ、()()は走りはじめる。家々を踏み壊さず、炎の足で凍らせながら。


「うそでしょ――――っ!!!!」


 可能な限りの全速力で珠飛亜は翔ぶ。


 あの状態の綺羅に取り込まれれば、いくら珠飛亜でも自分を解凍できない。氷を溶かしたてもすぐ再凍結されるのが落ちだ。


 逃げるしかない。


「蘭子ちゃん、お願いだから早く来て――――っ!!!!!」



 悲鳴をあげつつ、珠飛亜は必死にはばたくのだった。






 いた。あのひとが。


 わたしのあいするあのひとが。


 いつもやさしい、そしてどこかかなしいめをした、あのひとが。



(おにい……ちゃん……)



 獅子(綺羅)はそう呼んだつもりだった。だが、喉から出たのは低い唸り声。


 自分はこうも醜く変わってしまった。熱い。身体中が熱い。喉の中で巨大な毛虫が転げまわっているようだ。


 苦しい。あと少しで手が届きそうなのに。その私の手は、今や()()()()の前脚だ。



(たす……けて……。おにいちゃん……たすけて)



 炎の身体では涙も流れない。ごうごうと目元が燃えるだけ。


(あついよう。くるしい、よう)


 たすけて。このさむくてあついろうごくから、わたしをつれだして。


 わたしのことを、もっとみて。わたしはあなたのことがすき。わらっているあなたをみているのが、しあわせ。あなたがいるだけで、しあわせ。


 あなたのためならせかいだってほろぼせる。だからいま、あなたのえがおがほしい。いつもみたいにてをさしのべてほしい。こっちをむいてほしい。


(おにいちゃん……おにい……ちゃん――)


 彼女の慟哭は届かない。蜥蜴は眠ったまま、それを抱く天使はぐんぐんと離れていく。


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