69. S anthem of Y-CITY
柚葉市中央部、滝ケ原公園。気絶した理里を抱えて綺羅を探していた珠飛亜は、突如出現した青い炎の獅子に絶句していた。
「なに……あれ……」
目の前で手塩が獅子に踏み潰された――というより炎でできた足に取り込まれた。助かってはいまい。
(っ、ボーっとしてる場合じゃない!)
一テンポ遅れて珠飛亜は飛翔する。
(手塩くんが、あんなに簡単に)
死んでしまった。複雑な思いだ。敵だった、今は味方だった。それより以前は友人だった。そんな彼があっけなく倒されてしまった。
あらためて、珠飛亜はその犯人、いや犯獣を見やる。
「綺羅ちゃん……なの……?」
間違いなくそうなのだろう。にわかには信じがたい。いくら怪物であるとはいえ、あのか弱い妹が、ここまで巨大に狂暴に変容するなど。
高さ約百メートル、全長は六百メートル近い。が、それだけ巨大な生物が歩いているのに地面には足跡が残らない。かわりにその足形に道路が凍っている。
綺羅はもともと『具現化型』の能力者であり、この『青い炎の獅子』の巨体も彼女の意思のエネルギーが蜃気楼を得たものにすぎない。いわば幻影、ただし触れれば凍る幻影だ。
『GGGGGGGGG……』
その巨大なまぼろしの怪物は、台風が息をするように唸る。
珠飛亜たちを見つけた様子は無いが、怪物は何かを探しているように見える……しきりに辺りを見回して吼えている。
(どうしよう、これもうわたしたちがどうにかできるレベルじゃないよね?)
珠飛亜の心に陰がさす。
仮に吹羅を連れてきて、これのどこに触れば無力化できる? この巨体から綺羅を見つけ出せるか?
(……いや、弱音を吐いても仕方ない)
そう、仕方ない。思い直す。それよりも今、自分にできることを珠飛亜は模索する。
(吹羅ちゃんは蘭子ちゃんが迎えに行ってくれてる。スピードならあの子の方が圧倒的に速い。となれば……)
自分にできることは、
「りーくんを、ゼッタイ守る」
彼を、守る。誰よりもこの世で大切な、愛する弟を。
腕の中で眠る理里の童顔を、珠飛亜は決意を込めて見つめた。




