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星狩りのレプタイル ー邪眼の蜥蜴と夜空の英雄たちー  作者: 若槻未来
第4章「天馬騎士と氷の獅子」
70/162

67. expansion

(……とは言ったけど、まだ早すぎるわよ!)


 恵奈は麗華を抱えて空中を逃げる。


 そう、まだ早い。戦闘に入るのは、せめて麗華を怪原家の希瑠にあずけてからでなくては。


 麗華の体重は軽いが、人ひとりを抱えてあの籠愛とは戦えない。


(だけど気のせいかしら……あの男、少し速くなっているんじゃない?)


 先程のように激昂することはなく、静かに追撃してくる籠愛。その飛行スピードは明らかに増している。何せ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 冷静になったことで飛行の精度が上がったのか? と恵奈が考察していると、


 右側。眼下の住宅の赤い屋根が、()()()


「……!?」


 いや、斬れた、と言った方が的確か。巨大な金属どうしがぶつかったような音とともに、屋根が真っ二つに割れていた。


 攻撃? どこから、誰から?

 分かり切っている。だが、恵奈にはその『事実』が信じ難かった。


籠愛(ベレロフォン)が……!?」


 有り得ない。だが、奴以外に考えられない。

 彼が『空気の刃』を放ち、恵奈のすぐそばの家の屋根を破壊したのだ。屋根がはじけ飛ぶ寸前に恵奈の肌を()()()()疾風が、それを証明している。


 だが、彼の能力の効果範囲は多く見積もって二、三メートルだったはず。八〇メートル近く離れている恵奈に攻撃が届くわけがない。


 しかしそれは実際に起きた。信じがたいことだが、


()()()()()()()()()!?」


 その推測に恵奈はわれながら戸惑った。

 ありえない。そんな話は聞いたことが無い。異能力の効果範囲は生まれて死ぬまで決まっているはずだ。



「っ!」



 ブウン。再び『空気の刃』が恵奈の脇を通り過ぎる。今度は電線が切られて火花が散った。


(どういうことなの……!? とりあえず怪原家(ウチ)に戻って立て直さないと……!)


 心を乱されつつも、恵奈は希瑠の待つ家に向かい飛翔する。





「……どういうことだ……?」


 恵奈を追撃する籠愛自身もこの現象に驚いていた。

 もともと半径二メートルだった効果範囲が、今は五〇倍以上……半径一〇〇メートルほどの範囲の空気を掌握できている。


(気絶から目覚めて以降この調子だ……なぜ突然?

 それに)


 実を言うと、変化が起きたのはそれだけではない。恵奈が察していたとおり籠愛のスピードは向上している。


 風が平時より強く吹く。いや、正確には風を吹かせるのに使う『意思の力』が少なくすんでいる。


 "空気の支配者(エア・ドミネイター)"は対象を空気に限定した念動力だ。強く念じることで、より速く、より強く空気を動かせる。その意思の強さがさほど強くなくとも以前より素速く飛行できる。


 『空気の刃』を放った時は驚いた。あれは極細に収束した衝撃波なので、もともと効果範囲より遠く飛ばせたが……牽制(けんせい)のつもりがまさかあそこまで飛ぶとは。


「……凄いぞ」


 己に力がみなぎっているのを感じる。


 たとえばそう……今、エキドナが飛んでいるあたり(八〇メートルほど先か?)の空気も操れる。


「……もしや」


 半信半疑、エキドナの周辺の空気に意識を集中させる――




 吹き荒れよ。





 ごう、と大気が渦巻いた。乱気流は恵奈の平衡を崩したが、惜しいところで抜け出される。そういえばあの女は未来視が可能だった。



「ふふ……だが、これならどうだ?」



 ふたたび念じると、猟銃に撃たれたハトのように恵奈は墜落した。



 当然だ。彼女の周りから空気を無くしてしまったのだ。



「くく、これは凄いぞ! もはや『空気の支配者』ではない!」


 ――大気。


 籠愛の支配した空気の量は、そう呼ぶに相応しい。


「"空気の支配者(エア・ドミネイター)"などとみみっちいことはもう言わなくていい!

 "大気の支配者アトモスフィア・ドミネイター"! それが、進化したわたしの異能の名だ! ア――ッハッハッハッハッハッハ!!!!!!!!!!!」


 豪雪舞う宙高く、空の英雄は哄笑する。


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