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49. White Day
さて……その頃吹羅が何をしていたのかというと、
「松本教諭っ! 大丈夫ですかっ」
凍りついた中学の教室の床で、冷たくなった老教師の身体を揺すっていた。
二階西の空き教室、数学の居残りテストが行われていたこの場所も青い炎の火の手を逃れることはできなかった。もちろん異能が通じない吹羅は無傷であるが、ただの人間である松本博教諭はひとたまりもない。痩せぎすの老体は冷気に侵され、冷凍ミイラもかくやのありさま。
「教諭、教諭……あっ」
するっ。
つるつる滑る腕を、吹羅は勢い余って放してしまった。床に倒れた老体に「びしっ」という亀裂音。
「……も、もしや我……致命的なことをやってしまったのでは……」
恐る恐る教諭の丸眼鏡をのぞき込むと、
ばきっ。
「ぎゃ――――――――――――――――――――――――――――――――!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!! 我知らない我知らない我知ーらーなーいー!!!!!!!!!!!!!!」
吹羅は凍ったドアを蹴破って一目散に逃げ出す。後には真っ二つに割れた教諭の遺骸が残されていた。




