表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星狩りのレプタイル ー邪眼の蜥蜴と夜空の英雄たちー  作者: 若槻味蕾
第4章「天馬騎士と氷の獅子」
50/165

48. REBOOT



「…………」



 珠飛亜は答えない。理里に背を向けたまま、クラスの皆の解凍を続けている。


「……いや、そんなことあるわけないか! あの綺羅にここまで力があるとは思えないし……」


 気まずくなった理里は髪を掻きながら笑顔で否定した。

 しかし、姉の背中から漏れたのは重い声色だった。 


「りーくん……それはきっと、間違ってない」

「……え?」


 唐突に声のトーンが変わった珠飛亜に理里は戸惑う。

 だが珠飛亜は続ける。


「覚えてない? 前に(うち)で綺羅ちゃんの能力が暴走したとき、ママが言ってたこと……」

「……いいや」


 その事件は理里も記憶している。五年前、綺羅が異能力に覚醒したときの話だ。


 風呂場で綺羅と吹羅(ひゅら)がケンカし、怒った綺羅があやまって異能を発動してしまった。風呂場は即座に氷に包まれ、脱衣所から玄関までが凍らされてしまった。


 その時は吹羅の「異能を無効化する能力」によって事なきを得たが……その後しばらく綺羅は高熱を出し、動物のような動きをする状態が続いた。言葉もまともに話せず、「にゃあ、にゃあ」とだけ鳴いていたのが不気味だったことが印象に残っている。


 しかし看病していた母の言葉までは思い出せない。怪訝な表情をした理里に、珠飛亜は眉根を寄せて振り返る。


「『この子は、異能を使ってはダメ。この子の能力は()()()()()()()()()()()()()止まらないでしょう』……」


「っ!」


 理里は寒気をおぼえた。


 綺羅が異能を使うと暴走してしまうことは知っていた。だが、そこまでの力があったとは。


「……この現象は綺羅が?」

「十中八九。たぶん英雄に襲われたんだろうけど……吹羅ちゃんは一緒にいなかったんだろうね」


 苦い顔で珠飛亜はこぼす。


「嘘だろ……そんなまさか、綺羅が」


 理里は衝撃が抜けない。打ちひしがれ、その場に座りこむ。


 あの可憐な綺羅が。いつもおどおどしていて、でも家族のことだけは慕っていた彼女が。理里の後をけなげに付いてくる彼女が、これほどの惨劇を引き起こすなど。


 自分の意思ではないだろう。ある程度力もセーブしていたのかもしれない。ただ、使わざるを得ない状況に追い込まれてしまった……そして運悪く、今日に限って吹羅も付いていなかった。


 これは『事故』だ。不幸なことが積み重なった事故。しかし、そう呼ぶにはあまりに規模が大きすぎた。



「こんなのもう『災害』じゃないか。あの子がまさか……」



 その現実を理里は受け止めきれずにいた。

 そんな彼に、珠飛亜は。



「りーくん……気持ちは、わかるけど」



 いつになく固く厳しい表情で、理里を見つめた。



「それを可能にしてしまうのが『魔神』の血筋……父さんから受け継いだ、わたしたちの身体に流れるこの血なの。それは起きてしまったこと……もう、どうしようもないこと。

 そして大事なのは、この『災害』は()()()()()()ってこと。誰かが止めない限り、この街を、世界中を凍らせても止まらない。そして今……ここにいるわたしたちは、『動ける』」


 ぱしゃん、と教室の天井を覆っていた氷が水に変わり雨のように降り注ぐ。


「行こう、りーくん。吹羅ちゃんを探そう。あの子を見つけて綺羅ちゃんの能力を止めてもらう。それがりーくんの考える『正しいこと』じゃない?」


 歯を食いしばりながら、何かをこらえながら、珠飛亜は震えていた。しかし力のこもった声で理里に呼びかけている。


 その瀬戸際の強がりが理里の心を奮わせる。


(そうだ……珠飛亜だってショックを受けてるに違いない。それをどうにか自分を保っているんだ)


 綺羅がこの街を凍らせた。


 けれど、珠飛亜は立っている。教室に降りしきる雨の中、二本の足ですっくと立っている。


 それが誰のためか口にするのも野暮だ――


「……ああ。行くよ」


 少年の緑青色の瞳に、光が戻る。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ