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星狩りのレプタイル ー邪眼の蜥蜴と夜空の英雄たちー  作者: 若槻未来
第4章「天馬騎士と氷の獅子」
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旅立ちの夕に

《六日前――かけっこの翌日》



 夕陽の差す生徒会室。

 荷物をまとめ終わった蘭子(らんこ)が三人の役員を見まわした。


「世話になった。今日限りでわたしはテュポーン捜索の任務を終える。生徒会の仕事はこれからも行うが、この任務に関することは金輪際やらん。最後まで、迷惑をかけてすまなかった」


 蘭子は深く頭を下げる。


「……まったくその通りです」


 会長の席に座る手塩は、どこぞの特務機関司令のように手を組んで机に立てている。


「計画を無視して単独行動を取り、あまつさえ敗北するとは」


「まったくですよ。アリスタイオスを失った今、我々は苦境に立たされている……そんな中で貴方ほどの戦力が抜け落ちるなど信じ難い」


 卜部うらべ籠愛(ろうあい)が苦い顔でこぼす。彼は蘭子に背を向け、窓際から夕陽に燃える中庭を眺めている。


「いいんじゃなぁい。ランちゃんはランちゃんなりに吹っ切れたんでしょ? あたしは門出を祝うよぉ」


 麗華は興味なさげにピンクのツインテールの先をいじくっている。


「……返す言葉もない。では、さらばだ」


 蘭子が(きびす)を返し、段ボール箱を抱えて部屋を出ようとすると、低い声が彼女を呼び止める。


「待ちなさい」


「?」


 手塩。反射的に蘭子は振り返る。


「何だ、まだ恨み言が残っているか?」

「そんなものは尽きません。いくら言っても飽き足りない。

 ……だがそのすべてを省略し、これだけは今言わせていただきたい」


 手塩は立ち上がり、蘭子に向かって歩み寄る。彫りの深い(かお)が彼女の眼をしっかと見つめた。


「な、なんだ改まって……」


 戸惑う蘭子に手塩は上から眉間に皺を寄せる。


「正直、私は貴方のことがあまり好きではない。非論理的な思考や独自の正義で動く貴方を、最後まで理解できなかった。

 ……だが」


 そこで言葉を切って、手塩は息をひとつ吐き、


「わたしに無いものを貴方は持っている。私が選べない道を選ぶことができる『心の力』を。ですので、」


 彼は蘭子に背を向けた。


「貴方は貴方の道を往けばいい。心の、おもむくままに生きてください」


 それだけ言い残し、手塩は席につかつかと戻っていった。


「……お、おう。ではまたな」


 手塩の普段と異なる様子を脳が処理しきれなかったのか、蘭子はそそくさと部屋を出て行った。


 戸が閉まった後、麗華は天井を見ながらつぶやく。


「珍しいね、テッちゃんがあんなこと言うなんて」


 手塩は答えない。眼鏡の奥の茶色い瞳が何を思うのか、誰も知ることはできない。


 代わりに彼は一言こぼす。


「大河くんだけでなく蘭子さんまでが失われた……これは少々、今後について考えなければなりませんね」


 数々の難局を乗り切ってきた古王の頭脳が、策謀を巡らせ始める。





《現在――二〇一八年四月二十七日 一六時三〇分 柚葉市立第二中学校前》


(来た!)


 籠愛(ヒッポノオス)の視界にターゲットが映り込む。


 中学校の正門から現れたのは三つの人影。前のふたりの後を遠慮がちに付いて歩くショートカットの少女が(かい)(はら)()()だ。


 大河が遺した彼女の行動データどおりだ。授業を終えた後、美術部の友人とともに学校を出る。部活は火曜と木曜しか行われないので金曜の今日は帰りが早い。


「…………」


 談笑する彼女たちの死角に入りながら、籠愛は尾行をはじめた。





 いっぽう綺羅は、


(なんだろ、このかんじ……?)


 前を行く友人たちのあとを歩きつつ、えもいわれぬ「寒気」に襲われていた。


 この感覚は知っている。遊園地の恐竜に食われるアトラクションで感じたことがある……「食われる」という、本能的な恐怖が呼び起こす悪寒だ。だが、綺羅を襲ったそれは生半可なものではない。


 ムカデが血管の中を這い回っているようだ。尋常ならぬ気持ち悪さに綺羅はめまいをおぼえる。


「だいじょうぶ、綺羅ちゃん!?」


 倒れかけたところを友人の一人が抱きとめる。


「う、うん……ちょっとふらっとしただけ」


 綺羅はなんとか笑顔を作ってふたたび歩き始める。だが、異質な「悪寒」はなおも彼女を苦しめる。




 ひゅう、と吹く風が、小さなカマキリの骸を転がしていった。


〇万能の霊薬・ネクタルの所持数

蘭子:3本→0本

英雄たちのもとを去るにあたり返却。


手塩:2本→3本

籠愛:3本→4本

麗華:3本→4本


蘭子が返した3本を3等分。

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