30. at that waterfall
イラストはまりぬすさん(Twitter:@LosMarinus)にいただきました!!!
ありがとうございます!!!!!
柚葉大滝。落差三十三メートルにも及ぶ、柚葉市随一の観光名所。
切り立った崖からゆるやかな曲線を描き、滝壺へと落下する白い水流は、ナイアガラのように横に広いわけではなく、どちらかというと世界一の落差を誇る滝・エンジェルフォールに似て細く長い。
だがこの滝、実は水源はとうに枯れ果てており、ポンプで流している……という噂が存在するが、真偽のほどは不明である。
閑話休題。滝の息吹をじかに感じられる、滝道の終点である高台。いくつかのベンチが並べられており、みやげ物の出店も並ぶこの場所に、「かけっこ」のゴールテープが設置されている。
ガーゼ生地でできたテープの片側は、ベンチが並ぶ滝の直近より手前、滝から流れる川にかかる橋の高欄の片端に結ばれている。そして、テープのもう一方を持っていたのは――
「……遅いですね、蘭子さん」
手塩である。蘭子と理里のスタートを確認した後、籠愛の天馬でこの滝道まで移送された彼は、このレースの審判として、ゴールテープ係・タイム計測係を担っていた。
彼のかたわらには、この日のために麗華が用意したハイスピードカメラが設置されている。マッハ二(最大ではマッハ八)という超・超・超音速でゴールテープを切るであろう蘭子の勇姿を記録するため、麗華が資産家の父親にねだって購入してもらったものだ。これ以降、何に使うのか全く分からないが。
(しかし、本当に遅い……やはり妨害にあっているのでしょう。怪原家には一人、『異能を無効化する能力』の持ち主が居た……これだから、データには目を通しておけと言ったのに)
蘭子は普段から、敵のデータなどろくすっぽ調べもしなかった。彼女いわく、「その方が燃えるから」というが……手塩にはとんと理解できない思考だった。
(あの方は本当に合理性に欠ける。私の、一番苦手なタイプだ)
非論理的な、自らの感情のみを行動原理とする人間。それは、手塩にとって最も忌むべき存在だった。その先に何が待ち受けているのか、考えもしない彼らは――
「……む」
と、滝道の下の方から。なにやら恐竜のような雄叫びと、野蛮で汚い笑い声が耳に届いた。
「……ようやくですか。あれだけ啖呵を切ったのです、必ずや貴方の勝利を見せてもらわねば……今度ばかりは、怒りますよ」
そう。独り言つ手塩の口元は、笑っていた。




