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星狩りのレプタイル ー邪眼の蜥蜴と夜空の英雄たちー  作者: 若槻味蕾
第6章 第3節「追想:新・十二の功業」
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163. Battle 9  太陽の神

『アレス様、失神!! 第八試合もまたヘラクレスの勝利に終わりました!

 これでオリンポス十二神を破ったのは二柱目! もはやこの男を止められる者はいないのか!?』


 実況の興奮した声が響く中、ヘラクレスは闘技場の中心で拳を掲げる。

 鳴り止まぬ歓声の中、壁際ではアレスがまだ目を回していた。





『さあさあ続きまして第九試合! ヘラクレスの前に立ちはだかる次なる相手は……

 太陽神ッ! アポロン様だぁぁぁ―――――ッ!』


 またしても湧き上がる歓声は、アテナの時のように、どちらかというと黄色いものが多いようだ。

 それもそのはず。アポロンの顔は、彼が(つかさど)る太陽と見まがうほどの輝く美しさを放っている。


「本当にカッコいいわ、アポロン様……!」

「アレス様も(顔は)男らしくてカッコいいけど、アポロン様は健康的な筋肉質っていうか? イカすわよねぇ……!」

「ああ、アポロン様の光に焼かれて灰になりたい!」


 客席の妖精(ニンフ)や女神たちが熱い視線を送るアポロンは、なるほどアレスに比べれば細身である。しかし精悍なその顔付きは、男らしく芯が通っているように見える。金の長髪は、彼が(つかさど)る太陽の光のように力強い。


 彼はその青い瞳で客席を一瞥し、


「……(ハエ)どもが」


 ……およそ最低の感想を漏らした。


「淑女に向かってその言はどうかと思うが……」


 ヘラクレスが困ったように眉を寄せると、アポロンは顔を(しか)めた。


「美しくない物は俺は好きではない。無論(かしま)しい女どももだ。虫唾が走る」

「そう(こだわ)りが強いから振られてばかりなのでは……」


(やかま)しい」

「うおっ」


 ヘラクレスの指摘に返ってきたのは光線(・・)。足元の地面が赤く焼き付いている。


「貴様もだ、ヘラクレス。貴様の野蛮で下品な(たたか)い方は全く美しくない。雷をビカビカと光らせて腕力で解決するそのありよう、気高き神として失格だ」

「美しさなどどうでもいい。闘いはつまるところ最後に立っていた者の勝ちだ。そこに至る過程など何でもいいだろう?」

「キサマのそういうところが気に食わん!」


 ヒヒュン、と続けて光線が二条放たれる。ヘラクレスは俊敏な身のこなしでそれを(かわ)し、飛び退いた刹那に雷を放つ。

 だがアポロンも俊敏さでは負けない。ふっと身体をそらすだけで、簡単にその雷を避けてみせる。


「神とは(あまね)く全ての生物の頂点に立つ存在! 万物を統治する霊長! 上に立つ者として、我々は気高さを持つべきだろう!」

「あいにくだが、(オレ)は神としては新入りでな。そういう神の誇りなんてものは持ち合わせておらん」

「ならば今日ここで、俺がその身体に刻みつけてくれるわ!」


 突如、アポロンの全身が発光する。


「うおっ!?」


 ヘラクレスが驚くのも束の間、彼の肌を強烈な熱が()く。


(――まずい!)


 ヘラクレスが悟った時には、すでに会場全体が黄金の光に包まれていた。


 実況席からも絶叫が響く。


『まぶし――――ッ!!! なんですかこれは!!』

『アポロン様の権能、ですね……! 太陽の神たるアポロン様は、光を自在に操ることができる!

 その最も殺傷力が高いものが、全方位に光を発射するこの技!』


「やはり貴様の知恵は格別だな、ケイローン! 我が偉容(いよう)を最も世界に知らしめる絶技! 我が身を光球と化すこの『輝ける太陽(ポイボス・アポロン)』こそ、我が最も美しい戦技よ! この美しさに震えよ!」


『しかし眩しくて何も見えませんが……』


「何も見えぬということは、(われ)以外目に入らぬということ! それすなわち、我に目を奪われぬ者はいないという事!」


 都合のいい解釈を(のたま)うアポロンはさらに光を強める。


「我が荘厳なる光の前に消え去れ、ヘラクレス!!!!」

「……そうはいくかよ!!!」


 光に包まれる闘技場の中、ヘラクレスの声が力強く響く。バチバチ、と火花の音も聞こえる。


 それを悟ったアポロンは光を収めた。光が消えてゆき、彼の金髪以外の輝きは残らなくなる。


「お決まりの雷神化か。陽光と雷光で異なるといえど、貴様もまた光。俺の光は通用せんか」

「貴方の光は魂までもは()かぬらしい。ならば雷神化で回避できよう」


 雷の化身となったヘラクレスを一瞥(いちべつ)し、アポロンは指を鳴らす。


「……ならば、我が神器を開帳せん!」


 瞬時、闘技場の砂地に描かれる、光の文様。その中から姿を現すのは。


 黄金の装飾。燃える車輪。どぎついほどに金色で塗りたくられた荷台。

 神話に名高き、太陽神の黄金の戦車。搭乗者の背丈をゆうに(しの)ぐその大きさは、もはや建造物の域。黄金の神殿が突如、そこに建ったかのようだ。


「……HHEEEEEEEEEEEEEEEEEENNNN!!!!!!」


 (くつわ)で戦車に繋げられた二頭の巨大な馬がいななく。

 その大きさは並のものではない。現代の尺度で三メートルの巨体のヘラクレスよりも、まだ二回りは大きい。


 巨大な戦車に飛び乗ったアポロンは、さらにもう一度指を鳴らす。

 すると、金色の弓が彼の左手に現れた。


「そろそろ、本気で臨ませてもらおう」


 太陽神は(わら)わない。油断なき冷たい眼差しのまま、黄金の弦に右手をかける。

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