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星狩りのレプタイル ー邪眼の蜥蜴と夜空の英雄たちー  作者: 若槻味蕾
第6章 第3節「追想:新・十二の功業」
159/165

157. Battle 7 The Goddes of Wisdom



「お初にお目にかかる。知恵の女神よ」


 砂風の吹きすさぶ闘技場で、ヘラクレスがアテナに目礼する。


「こちらこそ、人類最大の英雄よ。お前の事は、天界でも度々話題に上がっていたよ」


 美貌のアテナは、銀の槍の穂先をヘラクレスの顎に向ける。長身の彼女だが、ほぼ巨人に近いヘラクレスには及ばない。


「十二の功業を成し遂げ、神となった勇者よ。その力、この私に見せてみよ」


 アテナは仁王立ち、槍の石突を地面に突き立てる。自ら動く気は無いようだ。


「む……ならばその胸、借りさせてもらう!」


 天に黒雲が渦巻き、一筋の稲光が走る。


『おぉーっとヘラクレス、最初から帯電した! オリンポス十二神を相手に手は抜けないか!?』

「……当たり前だろう」


 実況にヘラクレスは呟き、電流の走る拳を握る。


「……『雷拳』ッ!!」


 跳躍、青くバチバチと帯電する拳がアテナを狙う。

 しかし、アテナは余裕の表情だ。左手の重厚な盾を構える気配すら見せない。


「……ふふ」


(……! 護る気すら無いか!

 ならば受けよ、我が拳!)


 ヘラクレスは躊躇なく雷の拳を突き出した。鎧で覆われた細いくびれに、ヘラクレスの岩のような拳が迫る――


 ――だが。


「その攻撃は……”()っている”」


 耳元に。


「……!」


 アテナの囁きが聞こえると同時、ヘラクレスの腹から血飛沫が上がる。


『!?』


「な……に……」


 血を吐くヘラクレス。客席がどよめく。


「ば……かな……」

「驕ったな、英雄よ」


 アテナが槍を引き抜き、数歩下がる。ヘラクレスはその場にくずおれた。


貴女(あなた)は……相当な、遣い手だな」


 息も絶え絶えにヘラクレスがつぶやくと、アテナが微笑みを浮かべて答える。


「ふふ、そう思うかね? 君も、今の回避が並のものではない事に気付いているだろう」

「……!」


 ヘラクレスは歯噛みする。


「確かに……」


「見抜けるまで、何度でも挑んできたまえ!」


 そう言うと、アテナは懐から小瓶を取り出した。中には()()()()()が入っている。


「……!」


 その意味を理解したヘラクレスの眉間に皺が寄る。


『おぉーっと、アテナ様の手にあるのは万能の霊薬ネクタル! ヘラクレスの傷を治してもう一度挑ませようというご算段か!? すさまじい舐めプであります!』

「本、気か……?」


 ヘラクレスの形相はもはや鬼に等しい。


「ああ、本気だとも。この程度で終わってしまってはつまらないから」


 アテナの口角が上がっている。自分よりはるか下の存在を見下す、余裕の笑みに。


「いくらオリンポス十二神とはいえ……この侮辱は許せんぞ」

「そうかい? まあ、君が嫌と言っても与えるがね」


 アテナはかつかつと鎧のかかとを鳴らして、ヘラクレスに歩み寄る。

 そして……動けない彼の顎を無理やり開かせ、


「そら、飲みたまえ」


 緑色の液体を彼の口に流し込んだ。


「う……オオ……!」


 ヘラクレスが悶える。見る間に腹の穴が塞がっていく。


「さあ、もう一度攻めてきたまえ。君の力はそんな物か」

「貴……様!」


 逆上したヘラクレスは再び雷の拳を振りかざす。だが、アテナはそれも難なく(かわ)し、代わりに彼の心臓を貫こうと槍を突き出した。


(――まずい!)


 瞬時、ヘラクレスは「雷神化」――全身を雷と化す。槍は雷の身体をすり抜けた。


「おや、意外と機転が効く。生まれついての戦士だな」

(本気だったとも、化け物め!)


 雷となったヘラクレスは、()()()にかく(はず)のない汗を感じる。


「さて、どうする英雄よ。その姿でいられる時は短いのだろう?」

「ああ……だから、全力で貴女(あなた)をブッ倒す!」


 青白く弾ける人差し指を、ヘラクレスは鎧の女神に向ける。

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