表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星狩りのレプタイル ー邪眼のトカゲと夜空の英雄たちー  作者: 若槻味蕾
第6章 第3節「追想:新・十二の功業」
158/165

156. Battle 7 Prince(Princess) of Olympus

「……負けたああああああ!!!!!!!」


 カルキノスのハサミの前に、木彫りの人形がまたひとつ増えた。今度の人形は赤いサソリ……すなわちルピオネである。


「うっせえぞルピオネ……カスれた声が頭に響くんだよ」

「貴様は悔しくないのかラードーン! あそこまで無抵抗で敗けて! 戦士としてのプライドは無いのか!」


 サソリの人形がカタカタと石の床を鳴らして(わめ)くと、竜の人形がおごそかな声で答える。


「悔しいさ、半端なく。

 だから、次は絶対負けてやるもんか。俺はもっと強くなってみせるさ」


 そう言った人形の木の瞳には、何かが燃えているようだと怪物たちに感じさせた。


「ふん、そうか、なら良いのだがな。ここで心が折れるような半端者なら我が好敵手としては認められん」

「は? ラードーンの好敵手は我だが?」


 ここでヒュドラが口を挟む。


「我とラードーンは兄妹(きょうだい)、宿命で結ばれた永遠の戦友だぞ。新参者の貴様などに好敵手が務まるわけなかろう」

「あ? 雷から逃げ回っていた蛇ごときが何をほざく」

「なんだとぉーーっ!」


 親指ほどの大きさの人形たちがぴょんぴょん飛び跳ねて体当たりを始めた。


「おいお前ら、俺のために争うな」

「ラードーン、何だか分からないけどそのセリフすごくムカつく」

「あいてっ」


 こん、とカルキノスがラードーンの頭をつつく。


「痛えな! 何すんだ……って」


 ラードーンが見上げると、カルキノスは不気味にぷくぷくと泡を吐いている。


「ふふ……まさか僕が君より大きくなる日が来るなんてね。今なら誰でも僕の好きなようにできるわけだ」

「ちょ、カルキノス!? 何考えてんだお前!」

「ふふふふふ……」


 カルキノスの大きな鋏がラードーンににじり寄ってくる。


「や、やめろ……! やめるんだ!」

「抵抗したって無駄だよ、ラードーン。君は黙って……

 この僕のくすぐり攻撃を受けるのだぁーーーーっ!!」



「あ、やめろ、ちょ、待っ、うひゃひゃひゃひゃ!!」


 ぽこぽこと体当たりを続ける蛇とサソリの人形、そして竜の人形をいじくり回す青い大蟹。カオスでありながらほのぼのした絵面が広がり始めたとき、



 ジャアアアア〜〜〜〜ンン!!!!!!



 巨大な銅鑼(ドラ)の音が客席を静まり返らせる。



「お待たせいたしました! ただいまより『英雄戦争(ヘラクレスマキアー)』第7回戦をとりおこないます!!!!」


「っうう……相変わらず五月蝿(うるさ)い銅鑼だ」

「貴様のカスレ声よりマシだ」

「鼓膜が破れるかと思ったよ〜」

「あひゃ、あひゃ、助かった……」


 四者四様の反応を見せながらも、人形×3と蟹×1はすごすごと席に戻る。


「次の相手は誰だっけ? 第7回戦ってことは、もう折り返しなわけだが」


 ラードーンが聞くと、ヒュドラが憤慨して跳ねる。


「たわけ、次は……」


 ヒュドラが言いかけたところでアナウンスが響き渡る。


「東ィ! 神となったその身は(いかずち)と化し、立ちはだかる者全てを灼き払う!

 万夫不当の英雄神、ヘラクレス!!!!」


『ウオオオオオ〜〜〜〜ッッッッ!!!!!!』


『ヘラクレス! ヘラクレス! ヘラクレス!!』


 円形の闘技場に、地が呻くような歓声が響く。英雄を呼ぶ群衆の(こえ)はとどまるところを知らず、どっどど、どどうと客席を揺らす。


 だが、対岸の門に控える対戦者は、これまでの五者とは格が違う。


「西ィイ〜〜〜〜!!!! 神帝の頭蓋より産まれし王女!!

 深遠なる知略で英雄を追い詰め、勝利を奪うのか?

 智慧深き戦いの女神、アテナ!!!!!」


『キャアアアアァァァ〜〜〜〜〜〜ッッッ!!!!!!!』

『アテナ様ー、がんばってー!!!!!』


 黄色い歓声が西側の客席から響く。


「……おい、なんだありゃ」

「アテナ様は女性人気が高いのだ。ほら見ろ、あの精悍なお姿……」


 そう、ルピオネが指す先に立つ女神は、なるほど確かに美しい(・・・)

 兜を脇に抱える、2mはあろうかという長身は、鈍いグレーの甲冑に包まれているが、細身である事を感じさせる。


 短く切り揃えられた金髪が砂風に揺れ、神秘的な灰色の瞳はガラス玉のようだ。よく磨かれた槍を掲げる彼女は、一国の王子にさえ見える。


「ふーん。女子はああいうのが好きなのか」

「アテナ様を前にしてなぜその反応でいられるのだ!? この男の気が知れんぞ、なあヒュドラ!」

「ぬぬ……貴様(ルピオネ)の言葉を認めるのは癪だが、かっこいい……!」


 ヒュドラが苦悶の表情を浮かべた(ように他の者には見えた)。


『有難う、小鳥たちよ。今日の勝利は君たちに捧げよう』


 女神が槍を掲げると黄色い歓声がさらに湧き上がる。


「……ちょっとキザじゃないか?」

「馬鹿者、アテナ様はあれがよいのだ。女心の分からん龍め」


 ルピオネは目をハートにしているように見えた。


『両者、準備はよろしいでしょうか? それでは――


 ……開戦ッ!!!!』


 "英雄大戦"第7回戦。神と人との闘いの火蓋が、切って落とされる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ