154. 幕間 Pride of Battler
「「「ウオオオオオオーーーーーーッ!!!!!」」」
ヘラクレスただひとりが残った闘技場に、歓声が鳴り響く。
『第6試合勝者、ヘラクレスーーーーッ!!! 見事勝利を掴み取った決め手は、父である神帝ゼウス様より受け継ぎし技、『雷霆』だあーーーーっ!!!!』
「すげえ、すげえぜ!」
「これは本格的にゼウス様の後継者ってことなんじゃ!?」
「ヘラクレス最高だぁーーーーっ!!!!」
実況も煽り、これまでにない歓声が会場に鳴り響く。
彼も満身創痍ながら、手を掲げてその声援に応える。
「はっはは、これは父上に怒られそうな気がするなあ。だがまあ、勝ったのだからよかろう」
毒と熱で皮膚が焼け爛れ、見るも無惨な姿の彼だが、いつまでも笑みをその大きな顔に浮かべていた。
☆
その笑みは十五分後、見る影もなく消えていた。
『言いたい事は分かるな』
「……申し訳ございません」
治療を終えたヘラクレスは、大理石の部屋にひとり跪いている。
彼の目の前にある玉座には、誰も座っていない。しかし、その肘掛に一羽の鷲が止まっている。
鷲は、鳥のものでない低い声をヘラクレスに投げる。
『余の"あの構え"を軽々しく使うな。余と同じ力を持つお前がそれをする事には、少なからず意味が生まれてしまうのだ。
すでに民草の間には、お前が余の跡を継ぐのではないかという噂が流れている』
「滅相もございません……己は帝位などに興味はない」
『お前が無くとも民が求めるのだ』
声はぴしゃりと言い放つ。
『まことを申せば、余の治世は前帝クロノスの頃より乱れている。民も革命を求めている。そこにヘラクレス、お前だ。余と同じ力を持ち、数々の難行を乗り越えた勇者。これほど王に相応しい者がいようか。お前は担ぎ上げられるかもしれぬのだ』
「……父上は、己を心配してくださっているのですか?」
『……ああ。我が子を案ぜぬ親がどこに居よう』
ヘラクレスはにわかに胸が熱くなる。
『お前が下手を打つと、良からぬ陰謀に巻き込まれるやも知れぬ。余はそれを案ずると夜も眠れぬ。特に過酷な生涯を送ったお前に、これ以上苦労を背負わせたくないのだ』
「父上……」
『分かったら、目立つ事は避けるが良い。この祭りも、次辺りで敗退するのが得策ではあると考えるが……』
「戦士として、それはできませぬ」
『そう申すと思うたわ』
声が、ほのかに笑ったように聞こえた。
『では、存分に戦うが良い。ただし次の相手は手強いぞ』
「は、存じております。我が長姉……この戦祭りでも最大の難敵かと」
『分かっているならば、良かろう。励めよ』
それだけ言って、鷲はどこへとなく飛び去っていった。




