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星狩りのレプタイル ー邪眼のトカゲと夜空の英雄たちー  作者: 若槻味蕾
第6章 第3節「追想:新・十二の功業」
156/165

154. 幕間 Pride of Battler

「「「ウオオオオオオーーーーーーッ!!!!!」」」


 ヘラクレスただひとりが残った闘技場に、歓声が鳴り響く。


『第6試合勝者、ヘラクレスーーーーッ!!! 見事勝利を掴み取った決め手は、父である神帝ゼウス様より受け継ぎし技、『雷霆(ケラウノス)』だあーーーーっ!!!!』


「すげえ、すげえぜ!」

「これは本格的にゼウス様の後継者ってことなんじゃ!?」

「ヘラクレス最高だぁーーーーっ!!!!」


 実況も煽り、これまでにない歓声が会場に鳴り響く。

 彼も満身創痍ながら、手を掲げてその声援に(こた)える。


「はっはは、これは父上に怒られそうな気がするなあ。だがまあ、勝ったのだからよかろう」


 毒と熱で皮膚が焼け爛れ、見るも無惨な姿の彼だが、いつまでも笑みをその大きな顔に浮かべていた。





 その笑みは十五分後、見る影もなく消えていた。


『言いたい事は分かるな』

「……申し訳ございません」


 治療を終えたヘラクレスは、大理石の部屋にひとり(ひざまず)いている。


 彼の目の前にある玉座には、誰も座っていない。しかし、その肘掛に一羽の(わし)が止まっている。


 鷲は、鳥のものでない低い声をヘラクレスに投げる。


『余の"あの構え"を軽々しく使うな。余と同じ力を持つお前がそれをする事には、少なからず意味が生まれてしまうのだ。

すでに民草の間には、お前が余の跡を継ぐのではないかという噂が流れている』

「滅相もございません……己は帝位などに興味はない」

『お前が無くとも民が求めるのだ』


 声はぴしゃりと言い放つ。


『まことを申せば、余の治世は前帝クロノスの頃より乱れている。民も革命を求めている。そこにヘラクレス、お前だ。余と同じ力を持ち、数々の難行を乗り越えた勇者。これほど王に相応しい者がいようか。お前は担ぎ上げられるかもしれぬのだ』

「……父上は、己を心配してくださっているのですか?」

『……ああ。我が子を案ぜぬ親がどこに居よう』


 ヘラクレスはにわかに胸が熱くなる。


『お前が下手を打つと、良からぬ陰謀に巻き込まれるやも知れぬ。余はそれを案ずると夜も眠れぬ。特に過酷な生涯を送ったお前に、これ以上苦労を背負わせたくないのだ』

「父上……」

『分かったら、目立つ事は避けるが良い。この祭りも、次辺りで敗退するのが得策ではあると考えるが……』

「戦士として、それはできませぬ」

『そう申すと思うたわ』


 声が、ほのかに笑ったように聞こえた。


『では、存分に戦うが良い。ただし次の相手は手強いぞ』

「は、存じております。我が長姉……この戦祭りでも最大の難敵かと」

『分かっているならば、良かろう。励めよ』


 それだけ言って、鷲はどこへとなく飛び去っていった。

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