153. Battle 6 雷霆
「ーーーー!」
炎が、迫る。
「うおおおおおッ!!!」
ヘラクレスは空から、そして己の身体から雷を放つ。だが炎はそれさえはじき飛ばし、ヘラクレスへと一直線に向かう。
「終わりだ、ヘラクレス!!!!!」
ルピオネがそう叫び、炎の流星がヘラクレスを包もうとーー
「父よ……」
ヘラクレスが、つぶやく。
「恐れ多きこと。だが、雷を放つ最適解は、この構えより外になく」
突如、ヘラクレスは『雷神化』を解除した。
生身の皮膚が流星の熱に灼かれ始める。
「何やってんだあいつ!?」
「ヘラクレス、今それを解いたらダメだあ!」
観客席から悲鳴が上がる。
だが、ヘラクレスは少しも怖気づく事なく、
右手を、頭の後ろに構えた。まるで槍投げのように。
『え……』
『あの構えは!』
実況席、そして客席がざわつく。
その刹那、構えたヘラクレスの右手に雷電が渦巻く。
「お お お お お お お お お お」
「あれは……!」
「おい、あれって……!」
木彫りの蛇も、龍も、生身の蟹も、その構えに目を見開いた。
その構えは、このギリシャ神界であまりに有名な、権威の象徴であったから。
「"偽・雷霆"!!!」
極大となった雷の槍が、否、"雷霆"が投げ放たれる。一直線、それは赤き炎の流星と衝突し、
「うおおおおおおおっ!??!????!?」
拮抗。流星は突如勢いを止められ、ルピオネは戸惑った。
「ハ、神帝の技を真似るとは無礼千万! しかし所詮は偽物、我が炎で押し潰してやるわアアァ!!!!!」
すぐに意気を持ち直し、炎の勢いで雷を打ち消そうとする。
だが、すでに、
「ハ…………?」
炎は消えていた。いま彼女を包む白い光は、敵から放たれた青白い雷の光だった。
雷霆が、流星の炎を瞬く間に消し去った。
「あーーーー」
断末魔さえ許されない。圧倒的な光の本流の前に、ルピオネの体は塵すら残さず、消えた。