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星狩りのレプタイル ー邪眼の蜥蜴と夜空の英雄たちー  作者: 若槻味蕾
第6章 第3節「追想:新・十二の功業」
152/165

150. Battle 6 POISON GIRL

『さあさあ、インターバルを挟んで第6回戦!

 次の挑戦者は、天下無双の狩人オリオンを屠った暗殺者! 大地の怒りの化身は、雷神ヘラクレスを破れるか!?

 猛毒の大蠍(おおさそり)、ルピオネ!!!!!!』


 パアン、と花火が上がり、西側の門から、鋏を揺らして赤い巨体が姿を現す。


「やれやれ、またデカブツか。こうも同じような相手が続くと退屈だな」


 ヘラクレスはむむ、と腕を伸ばし、大きなあくび(・・・)を隠さない。


「ほう、大きい相手には飽きたのか?」


 低い声で問いかけ、サソリがヘラクレスに鋏を向ける。


「ならばお望み通り、サイズを合わせて(・・・・・・・)戦ってやろう」

「……は?」


 一瞬、ヘラクレスと観衆の目が点になる。


「おい、何言ってんだあいつ」

「サイズを合わせるって、小型化でもすんのか? ハハハ」


 そう冗談めかす者も現れる。空気がにわかに弛緩する。


 しかし、ヘラクレスはその言葉を警戒する。


「……何をする気だ、お前」

「見せてやろう。地母神ガイア様より賜った、我が新たな姿を!!」


 そう言うとサソリは身体を丸め、ぎしぎしと軋む手足に力を込め始める。


「う お お お お お お」

「……!」


 ヘラクレスは瞬時に体に雷を走らせ、その指先をサソリに向ける。


 稲妻が走る。灼熱のそれは一直線にサソリに向かい、力を込め始めたその身体に直撃、エビのようにその身体を丸焦げにする。


 ふしゅう、と煙を上げて、サソリの巨体はその場に崩れた。


「………………え、終わり?」

「何だ、大口叩いた割には大した事無かったな」

「まあ暗殺メインの奴だし、仕方ないだろ」


 客席が失望し始める。席を立とうとする者さえ現れ始める。


 ーーだが。


『お……おおお……』


 メキッ、と木が軋むような音がする。焦げたサソリの骸の背に、ひびが入っている。


「……!」


 続けざまにヘラクレスの雷が骸を襲う。


 だが、それ(・・)は何かに守られているかのように雷を弾いた。雷がそれ(・・)に当たろうとする瞬間、赤い光がそれを阻んだように見える。


「貴様……!」


 ヘラクレスが苦い顔をすると、それはついにサソリの背を破って現れた。


 髪。薄い紫の髪が、ふぁさ、と広がる。

 それが生える頭は小さく、人型の身体も小柄だ。


 はじめ全裸体であった彼女の、足元のサソリの骸から、赤い液体がヌヌ、と侵食し、皮膚を覆いはじめる。人々があっ気に取られている間に、それは全身を包むぴったりとした衣服になった。


 左手に、身の丈に似合わない大槍が出現する。それを握った7,8歳の少女は、細い刃先をヘラクレスに向けてこう言う。


「どうだ! これこそがガイア様より授かった新たな姿! 黄金の果実により、人の身を得た我が姿だ!」


「……」

「…………」

「………………」




「……ぶっはははははははははははははははは!!!!!!!!!!!!!!」




 沈黙を破ったのはヘラクレスだった。


「そんなちんまい姿で(オレ)に合わせたつもりか、あっはははは!!!!!!」

「……あ?」


 小さいルピオネの(ひたい)に皺が寄るが、ヘラクレスは全く意に介さない。


「あれだけの前置きをしておいてその姿とは!!! 観客の皆も反応に困っているぞ!!!」


「ぷっ……ははは」

「そうだよな、ここ笑っていいところだよな」

「やーいガキンチョ! そのちっちゃい拳でヘラクレスに傷ひとつでも付けてみろー!」


 客席からヤジが飛び始める。


「大丈夫か、その槍重くないかー? 押しつぶされないように気をつけろよ、あっははは!!」


「なん……だと……」


 わなわなとルピオネの小さな手が震え始める。


「お? 怒ったのか? やってみろよ、すぐ吹っ飛ばされるから!」

「はっはは、こういう趣向もありだな! ヘラクレス、一撃で吹っ飛ばしちまえー!」


「き……さまら……」


 自分の身長の倍以上ある槍を、赤子のような両手に構える。


「……許さん」


「はは……あ?」



 瞬。


 ルピオネの姿がかき消える。


 客席が彼女を見失う刹那、その次の瞬間には、




「ッ……油断、した……」



 鮮血が舞っている。


 ヘラクレスの太い首筋から、噴水のように血が噴きあがっている。



 眼前には、槍を突き出したルピオネの姿。



「侮るなよ小僧。貴様の武芸など我が一千年の鍛錬には遠く及ばぬのだ」

「ハ、幼稚な見た目のわりに年増か…………ガハッ!?」


「な、なんだあれは……!」


 観客が驚くのも無理はない。

 ヘラクレスの身体に、赤い(あざ)がいくつも浮かび始めている。それは内側からどろりと皮膚を溶かし、体液がばちん、ぶちんと破裂するように散りはじめる。


「ふふ、ようやく効いてきたか」


 ほくそ笑むルピオネ、その槍の穂先からは紫の液体が垂れている。


「……まさか」


 ヘラクレスも察する。


『おおっと! ルピオネの槍の穂先には毒が塗られているようです! これはヘラクレス、手痛い一撃を食らってしまったぁーーっ!』

『あの槍はルピオネの尻尾が変化したもののようですね』


 妖精の実況に合わせてケイローンが解説する。


『彼女の毒は、地上最強の狩人・オリオンを一撃で沈めたものです。毒はヘラクレスの弱点でもあります。まず一手、ルピオネが有利になりましたね』


「っ……」


 ヘラクレスは歯噛みし、ルピオネを睨む。


「この毒、ヒュドラのものとはまた違うな」

「ふふ、当たり前だ。奴の毒は獲物を仕留めるための即効性だが、処刑人である私の毒は『苦しめて殺す』ことに特化している」


 炎症に皮膚が(ただ)れるヘラクレスを眺め、ルピオネは幼い顔を笑みに歪める。


「三回戦と同じ展開だなあ。このまま待っているだけでお前は苦しんで死ぬ。私の勝利は決まったようなものだ。

 だが、それでは面白くない。見せろ、お前の全力を」


「ふ……これの、ことかな」


 バチバチ、とヘラクレスの肉体に稲妻が走る。


『……来た!』


 ケイローンが目を見開く。


「貴様の毒が回るより、己の雷の方が速い!」


 黒雲の渦から放たれた雷光がヘラクレスを撃つ。瞬時にその髪が逆立ち、彼は雷神となる。



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