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星狩りのレプタイル ー邪眼のトカゲと夜空の英雄たちー  作者: 若槻味蕾
第6章 第3節「追想:新・十二の功業」
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147. Battle 5 Never Give Up

「うおおおおっ!!」


 瞬間、ラードーンは自分の首を二本食い千切った。


「!」


 驚くヘラクレスをよそに、ラードーンは飛びのき、ちぎった首を両方とも目の前の地面に突き立てる。

 そして、次の瞬間ーー


「!?」


 ヘラクレスの雷拳が、二本の首に吸い込まれた。


「ああ!?」


 ーー否、一瞬そう見えた。

 ヘラクレスの拳は消えたわけではない。ただ、二回りほど小さくなったのだ。


「っ!」


 瞬時にヘラクレスは拳の勢いを止める。だが踏み込んだ体は止まらず、二本の竜の首を通過し、もんどりうってその場に倒れた。

 その首を通過した瞬間にも、ヘラクレスの体は一回り小さくなる。


「なんだ……これは!」


 戸惑うヘラクレスは、手首より小さくなった自分の手を愕然と眺める。


「はあ、はあ……!」


 息が荒くなる。最強、無敗だと思っていた雷の力が、弱められている。いったいどうやって!?


「ハハ……火事場のバカ知恵ってか?」


 声にヘラクレスが顔を上げると、ラードーンが不敵に笑っていた。


「きさま! 一体何をした!」

「誰が、教えるか!」


 ラードーンは首をもう二本ちぎって地面に突き立てる。





「避雷針だ!」


 カルキノスが客席を叩く。


「なんだうるさいな……」


 木彫りのヒュドラが身体を鳴らすが、カルキノスは昂りを抑えられなかった。


「ラードーンは『黄金竜』、その鱗は全て黄金でできている! 黄金は雷を通すから、それを地面に刺すことで、ヘラクレスの雷を地面に逃がしたんだ!」

「はあ……あの金キラにそんな力があったとはな」


 ヒュドラがため息をつく。


「これはすごいよ! あのヘラクレスの弱点をあぶりだしたんだ!

 ひょっとすると、ひょっとするかもしれないぞ!」


 カルキノスは興奮に黒い目を踊らせた。





「貴様……考えたな」


 ラードーンは自分の周りに、首の柱を円形に立てた。


「これでお前の雷は俺に届かない!」

「ふうん。なかなかやる」


 ヘラクレスは雷の指で唇を拭う。


「その柱に近づけば、(オレ)の雷は地面に吸い込まれてゆく。かといって肉の体に戻れば、お前の邪眼の光で石化される」

「そうだ……そしてお前の雷神形態は、長時間はもたない」


 ばち、ばちと光るヘラクレスの雷の輝きは徐々に弱まっている。ラードーンの『避雷針』に散らされた事も原因だろう。


「フ。追い詰められたな」

「ああ。だが、それこそお前の真価が見られる時なんだろ?」


 ラードーンが啖呵(たんか)を切る。「フフ、」と消えかけのヘラクレスは笑って、足元に落ちている石を指さした。


「お前に勝つ方法が、ひとつだけある」

「……何だと」


 「司令塔」の頭の眉を上げるラードーンにヘラクレスは説明する。


「今から己は、この石ころを蹴飛ばして貴様を撃ち抜こうと思う。だがそれをするには、己は実体化せねばならん。

 勝負だ。この石が貴様を撃ち殺すが早いか、貴様の邪眼の光が早いか」

「面白い……やってやろう」


 ラードーンが巨体を乗り出す。ヘラクレスはほくそ笑む。


「そこのお前!」

「ひええ!?」


 突然の英雄の指名に観客が飛び上がる。


「お前だ、青眼に金髪のガキ。『(ウヌス)(ドゥオ)(トレス)』とカウントしろ。それが己たちの勝負の合図だ」

「は、はい……!」


 小柄な少年がおずおずと立ちあがる。震える口は嬉しさ半分、緊張半分といったところか。


「じ、じゃあいきます!!


 (ウーヌス)……」



 しん、と静まる闘技場。先ほどまでの喧騒が嘘のよう。



(ドゥオ)…………」



 ひりつく両者の間には霜が降りていて、しかし互いの胸には、闘志が溶岩の如く燃えている。



「…………(トレス)!」




 びか、とラードーンの左眼から閃光が放たれる。


「「うおおおおおおおおおおおおっ!!!!!!!!」」


 同時、ヘラクレスも稲妻の速さで石を蹴り上げる。足元の石が音の速さでラードーンに飛んでいく。


 石は一直線、ラードーンの「司令塔」の頭を狙う。だが、


「っ……!」


 実体化したヘラクレスは、邪眼の光を全身に浴びた。すでに体の全面が灰色に変わりつつある。


 そして、龍の超人的動体視力は石の軌道を捕捉している。


「たかが石ころひとつ、はねのけてやる!」


 ラードーンは首でその弾丸をはじこうとするがーー


「!?」


 軌道が、変わる。

 ガツン、と何かが弾丸に二度(・・)ぶつかり、振り払おうとした龍の首をジグザグに避ける。


「何だと!?」


 弾丸が脳天に迫る。もう回避は間に合わない。


(ぐっ、だが石ころで俺の頭を撃ち抜けるわけがーー)



 ずどん。



 あっけなく、その石ころはラードーンの頭を貫通する。



「っーーーー」


 ラードーンの巨体が膝をつく。すでに、その眼に光は宿っていない。



 終戦のアナウンスが鳴り響くのを、ラードーンは遠のく意識で聞いていた。

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