目覚め、ふたたび
「う……」
お馴染みの書院造の和室で、理里は目を覚ました。
「お、気がついたか。今回は早かったな」
部屋に居たのは長兄・希瑠のみ。前回のように、手を握ってくれているヒトはいなかった。
「…………」
「何だ、不満そうだなぁ。オレが添い寝してた方が良かったかい?」
「……気持ち悪いこと、言うな……。寝覚めが悪くなる」
「おおっと、こりゃ手厳しい」
希瑠は天袋(天井に近い、小さな押し入れ)の中を整理しているらしい。鴨居に頭をぶつけるほどの長身では背伸びの必要もなく、こちらに背を向けて、ガサゴソと何か探っている。
「瀕死のお前たちが菖蒲ヶ原池で見つかってから、二日と少しってとこだ。吹羅たちはもう寝ちまったよ。何せ夜の一時だ……母さんは多分起きてるだろうから、後で呼びに行くわ」
「……二日、か…………」
ぼうっとした頭で、理里は思索にふける。
左眼を連続使用したにしては、随分と早い目覚めのように思う。前は一回だけの使用で、三日間も寝込んでしまったというのに。能力に名前をつけたことの効果だろうか。
「生徒がひとりいなくなったってのに、学校じゃ何の騒ぎにもなってないらしい。妙な話だ……神々が手を回しているのかもな」
「……そうか」
理里はうつむいた。人界に対してオリュンポスの神々がどれほど影響力を有するのかは知らないが、何らかの方法で大河の失踪を黙殺したらしい。
だとしたら、彼の親は、彼の家族は……いったいどんな気持ちで、今を過ごしているのだろうか。いたたまれない思いを抱くと同時に、理里の胸に罪悪感が再び押し寄せた。
「お、あったあった。コレよ、コレ」
暗い顔の理里のことも気にせず、希瑠は何かを見つけたらしい。その小さなモノを、細長い指でつまんで、眼前で揺らした。
「……兄さん、何探してたんだ?」
「母さんが、自転車のカギをなくしちまったらしくてな。スペアを取りに来たのよ。明日も買い物で使うだろうから、覚えてるうちにってな。そいじゃ、呼んでくるからちょっと待ってな」
希瑠はふすまを開け、小走りで部屋を出て行った。
(いいようにパシリにされてるな……二十五歳にもなって養ってもらってる代償、なのかな……)
当の希瑠はあまり気にしていないようだが、彼の家庭内での地位はかなり低い。彼からすれば妹のはずの珠飛亜とぶつかって足蹴にされているのをよく見る。威厳などあったものではな
「り゛い゛い゛い゛い゛く゛う゛う゛う゛う゛ん゛ん!!!!!!」
「いや早すぐわぁっ!?」
予定より早く飛んできた、予想通りの母の巨体に(決して太っているわけではない、一八一センチの長身がちょっとムチッとしてるだけなのだ)身動きも取れずホールドされる理里だった。