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星狩りのレプタイル ー邪眼の蜥蜴と夜空の英雄たちー  作者: 若槻味蕾
第6章 第2節「追想:或る龍の話」
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136. 内的革命の歌

 砂の舞う地で、黄金の牙と、赤い槍のような針がぶつかり合う。


「フフ……やるな、龍よ!」

「お前もな、(サソリ)!」


 象ほどの大きさの大サソリは、龍の百の頭を器用にかわし、毒針と鋏で攻撃を仕掛けてくる。


「だが龍よ、貴様は……少し正直すぎる!」


 サソリが尾で地面の砂を巻き上げた。


「なあっ!?」

「それ、今だ!」


 どうん、と強烈な体当たりが龍の胴体をとらえ、龍は薙ぎ倒される。

 再び起き上がろうとすると、すでに心臓に毒の尾が向いていた。


「くっ、ずるいぞ!」

「馬ァ~鹿、戦いにずるいも何もあるものか! 相手を殺せればそれで勝ちなのだ、あっははは!」


 サソリは高笑いする。龍は二百の眼で恨めしげにそれを睨んでいた。





「聞いてくれよヒュドラ、カルキノス!」


 九頭の白蛇と、その親友である大蟹が好む天界の水辺で、龍は愚痴を垂れていた。


「あのサソリ、ホントに性格悪いぜ! 砂で目くらましなんかしやがって」

「ラードーン、貴様は相変わらずお人好し……いや、"お龍好し"だな。だまし討ちくらい当たり前だろうに」


 ヒュドラが龍の名を呼び、九つの頭でくっはは、と失笑する。


「何だと!? 誇りってものは無いのかよ!」

「かーっ、誇りだと。英雄にでもなったつもりか? 我ら怪物にそのようなもの必要なかろうよ」

「何ィ!」

「や、やめなよ2匹とも……喧嘩してるとヘラ様に叱られるよ」


 ライオンほどもある大きさの大蟹……カルキノスがおびえながら間に入る。


「ヘラだと? あんなゼウスの腰巾着に何が……」

「ストップ、ヒュドラ!」


 ラードーンの百の首のひとつが、ヒュドラの口に巻き付く。


「貴様、何をする!」


 ヒュドラの他の首が食ってかかるが、ラードーンは彼女を諭す。


「忘れたのかヒュドラ、神々は()()()()んだ。自分に関する話題はどこに居たって聞こえるんだぞ」

「……チッ」


 ヒュドラはふさがれていない口のひとつで舌打ちをする。

 神帝妃ヘラ。ゼウスの妃であり、すべての女神を統べる者……それが彼らの主だ。


「ヘ、ヘラ様のおかげで僕らは今ここにいるんだ。普通なら地獄に落とされてたところを、ヘラクレスを苦しめた功績で拾ってもらって、天界のはずれで暮らせているんじゃないか。感謝しようよ、ヒュドラ」

「有事の際の兵隊としてな。だが、カルキノス……貴様が、そう言うなら……」


 ヒュドラの九つの顔が心なしか赤らむ。カルキノスはそのことに気付いていないようだ。

 龍の昂っていた気持ちも、それを見て少し和らいだ。


(こいつら、早くくっつけばいいのに)


「……おいラードーン、いま何か余計なことを考えているだろ!」

「え? 別に何も」

「口角が上がってるのだ、無駄に多い頭の全部で!」

「お前も多いだろ」

「我の頭の数はれっきとした理由がある! 遠い東の国では、9は「久」、すなわち永遠を意味する……不死の我にふさわしい数なのだ!」

「生まれつきの頭の数に理由あるかよ」

「ぬわにぃーっ! 我がこの長い生で悟った回答を侮辱するか!?」

「けんかはやめてよ~」


 カルキノスがあたふたと鋏を振る。普通の蟹よりはずいぶん大きい彼だが、ヒュドラや龍と比べると子犬のようだ。

 蛇の尾がしなり、赤い目がぎらりと輝く。龍はそれを余裕の表情で見下す。


「シャーッ!!」


 九頭の蛇が、ぬらりと光る毒牙で龍に襲い掛かろうと――


「ふっ」


 百の頭のうち十八、ヒュドラの倍の数の頭でラードーンが頭突きを食らわす。すべての首と脳天に打撃を喰らったヒュドラは、「ぐえ」と間抜けな声を上げて倒れてしまった。


「ああっ、ヒュドラ! 大丈夫かい、すぐ手当をしなくちゃ」

「そいつが目覚めたら言っておいてくれ。次は頭の数を十倍にして来いってな」

「もう!」


 カルキノスがぷんすかと目を怒らせるのを尻目に、ラードーンは百の喉で鼻唄のコーラスを奏でながら去っていく。


「……ラードーン、君は変わったよ。前の穏やかな君の方が、僕は好きだったなあ……」


 蟹はため息ならぬため泡を吐いて、その背中を見つめていた。

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